
【幼稚園のママ友トラブル~ママ友カースト第10話】
友美は、旦那へ幼稚園での悩みを打ち明けたが、相手にされなかった。そのことがきっかけで、旦那に幻滅してしまう。しかし、幼稚園の先生の助けもあって、周りのお母さんたちからの無視などは減りつつあった。
そんな時、お遊戯会の最中に、梨華は桜子からひどい言葉を言われてとても傷ついてしまった。
「うああぁぁーん!うああぁぁー!!」
梨華はひどく泣き続ける。
「梨華……!大丈夫だよ。ママがいるからね。」
「ちょっと、どうしたの?」
瞳ちゃんが心配した様子で駆けつけてくれた。
「今工藤さんが……。」
周りにいたお母さんたちが瞳ちゃんに事情を説明してくれる。
瞳ちゃんは話しを聞き終わる前に、血相を変えて教室を飛び出した。
桜子さんを探しに行ったんだろう。
私はとにかく梨華の側にいなくては、と思い、ずっと梨華を抱きしめていた。
「工藤さん、ちょっと酷いね。」
「梨華ちゃんにあんな酷いこと言うなんて。」
周りのお母さん達が口々に言い出した。
そして、その中の一人が話しかけてくれた。
「一ノ瀬さん?ここはやっとくから、落ち着く所へ行って休んでてね。」
「すみません、また戻ってきます。」
今は、これから出番の子供達がたくさんいてあわただしい。
私は梨華を抱き抱えて、あいている教室へ行った。
梨華に優しく話しかけ続け、ずっと頭や背中をなでてやった。
『友ちゃん、今どこ?』
瞳ちゃんから電話が来て、私達がいる教室へ来てくれた。
「工藤さん、いたよ。梨華ちゃんに何てこと言うんですかって怒鳴ったら、何のこと?ってしらばっくれてたよ。本当あり得ない。他のお母さんたちも、もうこのこと知ってるよ。工藤さん、めっちゃたたかれてる。」
さすが、悪い話しは回るのが早い。
たたかれて当たり前だ。絶対に許さない。
私は、今にも爆発しそうな怒りを必死におさえ、冷静に話した。
「瞳ちゃん、本当ありがとうね。今日が終われば三連休だから、とりあえず落ち着こうと思うよ。」
瞳ちゃんには、感謝しかない。
いつも味方になってくれて、心の支えだ。
とにかく梨華は私から離れないので、職員室へ向かった。
おばあちゃん先生に、全てを話した。
「まぁ……!梨華ちゃん可哀想に……大丈夫よ~!梨華ちゃん、赤ずきんちゃんとっても上手だったわよ~。」
先生は、一生懸命梨華を慰めてくれた。
でも、梨華はずっと目をうるうるさせてニコリともしなかった。
お遊戯会の演目が終わるまで、あと一時間以上はかかるだろう。
出番が終わった子供たちは、保護者とお遊戯を見ることになっている。
梨華は外にいたいと言うので、中庭に行って私もついでに気分を落ち着かせるつもりだった。
一応、旦那へ中庭にいるというメールをした。
中庭に着くと、梨華はぐずぐずしながらもお花を見たりしていた。
「これ、コスモス?」
「そうだよ。梨華すごい!よく分かったね~。」
泣きじゃっくりはしているが、少しずつ会話が出来るようになっていた。
そして、すぐに旦那が中庭に来た。
「どうしたんだ?中庭なんかにいていいの?まだお遊戯会やってるよ?」
そんな事知っている。私は、旦那の顔を見るなりイライラしてしまい、事情を説明するのも面倒臭かった。
「さっき、梨華が工藤さんに……。」
全てを説明し終わると、旦那が怒鳴った。
「お前はなんで梨華の近くにいなかったんだよ!お前がいれば、そんな事言われずに済んだだろ!いつまで母親同士のゴタゴタに子供を巻き込むんだよ!」
私は、旦那の反応にびっくりしてしまった。
そんなに怒らなくたって……。そもそも、私のせい!?
言い返したい事はたくさんあったが、声が出なかった。
「梨華おいで。パパといよう」
旦那が梨華の手を引き寄せようとすると、梨華はその手を振り払った。
「ままがいい!!」
旦那は少し黙った後、ポツリと言った。
「お袋と一緒に帰ってるから。」
私は返事をしなかった。
旦那に言い返したい言葉達が、頭を駆け巡っていた。
いつでも梨華の側にいられるわけじゃないのに。
桜子さんが、一人で勝手にゴタゴタを始めただけなのに。
梨華を巻き込みたくないって1番思ってるのは私なのに。
なんで私が責められなきゃいけないの……!!
もう無理だ。
我慢していたけれど、涙を止めることはできなかった。
旦那が味方をしてくれないのが悲しい。
なにより、梨華にあんな酷いことを言った桜子さんが憎い。
頭の中が、負の感情でぐちゃぐちゃだよ。
その時、何かが頭にふわっと触った。
……梨華だ。
梨華は、私が泣いているのを見て頭を撫でてくれている。
「まま?だいじょうぶ?」
私は唇を噛みしめた。でも、涙は止めようとすると余計にあふれ出る。
「大丈夫だよ。ごめんね」
絞り出したような声で答え、梨華を抱きしめた。
「そろそろ、教室へ戻らないとなぁ……。」
梨華のおかけで、心がやわらいだ。しかし、この子の心の傷が本当に心配だ。
しばらくしてから、教室の方へ向かった。
「一ノ瀬さん!大丈夫?」
お母さんたちが寄ってきてくれた。
そして、口々にこう言った。
「工藤さん、梨華ちゃんが優秀だからって妬んでたのよ!絶対!」
「佐藤さんの悪口言い出したのも工藤さんでしょ?」
「今回は本当、酷いわよね……。」
手のひらを返すように、私のフォローをしてくるお母さんたちだけど、やっぱり少しは嬉しかった。
こんな時まで無視されたりしたら、いたたまれなかっただろうし。
事情を聞いた担任の先生が来てくれて、先生が私に謝ってくれた。それから、梨華を抱きしめてくれて、優しく問いかけた。
「梨華ちゃん?これから教室に行って、皆でさようならするんだけど、来られるかな?」
「梨華、行ける?ママといる?」
私は心配で、そう聞くと梨華は首を横に振って言った。
「さようならしてくるね。」
「じゃあ……よろしくお願いします。」
私は、先生にお辞儀をした。
「はい!お預かりします!」
梨華は先生と手を繋いで、教室へ向かった。
私は役員会の仕事が残っていたため、別の教室へ行ってお遊戯会の後片付けをした。
それから、梨華の教室へ向かった。
教室前の廊下で、他のお母さん方から離れて、桜子さんが一人でぽつんと立っている。
いや、離されていると言った方が良いのか。
「一ノ瀬さん、お仕事ありがとう!大丈夫?」
お母さんたちが話しかけてくれる。
チラッと桜子さんを見ると、ずっとうつむいている。髪の毛の間から見える表情は、眉間にしわを寄せているように見えた。
桜子さんは、いつも通りみんなが寄ってくると思っていたのかな。
本当に、桜子さんは今回はやり過ぎだ。
周りも、さすがに桜子さんの行動に引いただろう。
【赤信号皆で渡れば怖くない】ではないけれど、皆で桜子さんの相手をしなければ良いという事だろう。
いい気味だ。
梨華はもっと傷ついている。
でも、私も一緒になって無視してやろうと思えば幼稚だ。
桜子さんと同じになってしまう。
だけど、話しかける理由がない。
桜子さんが皆から何て言われようが、独りぼっちでいようが自業自得だ。
そう思って、帰りの挨拶が終わるのを待っていた時だった。
「さよーならー。」
教室のドアがガラガラっと空いて、子供たちが出てきた。
……あれ?梨華はまだ教室か。
最後まで待っていると、梨華とゆいちゃんが教室に残っていた。
梨華がまた泣いている?!
「梨華!どうしたの?」
「ままぁ~……ひぇぇぇーん!」
私に飛びついてきた梨華は消え入りそうな声で泣き、ずっと私の胸に顔を埋めていた。
桜子さんも教室に入ってきて、「さようなら。」とゆいちゃんの手を引こうとした時、先生が強い口調で言った。
「ゆいちゃん、梨華ちゃんにあっち行って!来ないで!ってしきりに言っていました。梨華ちゃん嫌いとも言っていました。謝らせてください。」
桜子さんは、
「ゆい、ごめんねは?」
と冷たく言った。
ゆいちゃんは黙ったままだ。
私は、ゆいちゃんを不憫に思った。
きっと、桜子さんが普段言っている事を口に出したのだろう。
梨華はゆいちゃんにとって、悪い子になっているのだろう。
「子供同士の喧嘩でしょ。ごめんなさいね、じゃあ、失礼します。」
「ちょっと工藤さん・・・!!」
先生は止めに行こうとしたが、廊下にいるお母さん方や子供たちの間をすり抜けて、桜子さんは足早に帰っていった。
「一ノ瀬さん、すみません。ゆいちゃんにいけないって言ったのですが……。」
「大丈夫ですよ。では、お世話になりました。また~。」
私は先生に笑顔で挨拶し、梨華を抱きながら家に帰った。
とにかく、気分が落ち着く所へ行きたい。
体の中が怒りで支配されているようで、どうしようもなかった。
家に着くと、旦那とお義母さんが待っていた。
お義母さんは事情を聞いたようで、梨華もぐったりしている事から「また来るからね」と言ってくれた。
「お義母さん、すみません。」
「ゆっくり休みなさい。」
お義母さんは、優しい笑顔で帰っていった。
私は、梨華を着替えさせて荷物をまとめると旦那に言った。
「私たち、今から実家に行って泊まってくるから。」
「……分かった。」
旦那は私の顔を見ずに言った。
それから、三連休は私の実家で過ごした。
梨華も気分が晴れたようで、楽しそうに過ごしていた。
そして、休み明けの幼稚園へ行く朝、さぁ行こうと思った時に梨華が嘔吐した。
その日は結局幼稚園を休み、家でゆっくりしていると梨華がつぶやいた。
「りか、ようちえんいきたくないなぁ」
梨華の吐き気は、幼稚園へのストレスだった。
こうして梨華は特別教室へ通うことになり、精神状態の様子を見ることになった。
特別教室へ通っている間、私はずっと思っていた。
これからの梨華の学校生活はどうなるんだろう。
私は、不安しかなかった。
ちなみに事の原因を作った本人はバス通園に変え、皆と距離を置いているそうだ。
私は、二度と顔も見たくないと思っている。
この人のせいで、家庭を滅茶苦茶にされたんだから。
次回は来週公開~【第11話・私は最低な母親?ストレスの向かう先は我が子だった】
ライター O. 2児の母です