【ママ友小説】ママ友カースト~ 先が見えない!幼稚園をやめさせて実家へ帰りたい

友美と旦那の関係は、怒鳴り合って喧嘩するほど悪くなっていた。今までの仲の良かったのが嘘のようだった。娘の梨華は、何とか幼稚園の特別教室に通うことができていた。しかし友美は、梨華が普通のクラスに戻れない事からの焦りや、旦那へのストレスを梨華にぶつけてしまう。友美の精神状態もギリギリだったのだ。



先が見えない

1日幼稚園を休んだが次の日には、普通に登園できた。
といっても、まだ特別教室だけど。

焦ってはいけない、そう思いながらも一体この状況がいつまで続くかわからない。
先が見えない事に、不安しかなかった。

幼稚園に着いて教室に入り、少し落ちつくと、
「今日、お母さんは、1人でゆっくりしてください。」
おばあちゃん先生は、とびきり優しい笑顔でこう言ってくれた。

「……はい。よろしくお願いいたします。梨華、あとでお迎え来るからね。」

先生は、私のこともとても気にかけてくれていた。おばあちゃん先生がいれば梨華も大丈夫だろう。

私が、幼稚園を出ようと下駄箱に向かった時だった。
高そうなセットアップの服、キツい巻き髪、ハイブランドのバッグ。桜子さんだ……!
心臓が飛び出るかと思う程、ドキッとした。

「……あ。」
桜子さんが私に気付く。
私は、桜子さんの表情を見てある意味驚いた。
覇気がないのだ。以前のような、堂々として勝ち気な表情ではなく、弱々しいオーラが漂っていた。

「どうも……。」
私はそう言って、そそくさとその場を離れようとした。

「あの……!」
桜子さんが、きっと私に話しかけたんだろうけど、聞こえないフリをして足早に幼稚園から出た。
私はそのまま、瞳ちゃんの家に向かった。

「おー!元気~?」
瞳ちゃんは、いつもより明るく迎えてくれた。

メールのやり取りはしょっちゅうしているけど、会うのはちょっと久しぶりだ。
私は、会うなり最近あった出来事や、旦那のこと、梨華のことを話した。

息つく間もなく喋った。
瞳ちゃんは、うんうんと聞いてくれていた。

「はぁ……。一気に喋ってスッキリした!」
私はハッと気が付いて話し終わると、本当に心が晴ればれした気分だった。

「やっぱさー、女は話し聞いてもらえるとスッキリするんだよね!よかったよかった~。」
瞳ちゃんが満面の笑みで言う。

「瞳ちゃん、色々本当ありがとう。感謝してる。瞳ちゃんがいなかったら、実家に逃げ帰ってたよ~。」
「何~?いいよ、感謝なんて!何もしてないし!」
私は、瞳ちゃんの存在に本当に救われている。
本当に、感謝の気持ちでいっぱいだった。

と、その時ふと思い出した。
「あ!そういえばさ、さっき桜子さん見たんだけど!」
「そうなの?何しに来たんだろうね~。あの人もうずっとバス通園で、誰も気にかけてないよ!存在忘れられてるレベル!」

「そうなんだ……。」
少し、不憫に思ってしまう私はどこまでお人好しなんだろうか。
そもそも、桜子さん自身の行動のせいで幼稚園に来づらくなったんだから。

「ボスママが消えて、平和だと思うよ~。私は気にしたことないから分かんないけど!今どきボスママとか、ダサすぎない?」
瞳ちゃんは、ケタケタ笑って言う。

「梨華ちゃんがクラスに戻れるようになったら、また一緒に送り迎えしよーね!他のママ達も、友ちゃん親子心配してるから!」
「うん!ありがとう。」

私は、この言葉を聞いて少し心が軽くなった。
皆から嫌われ続けているわけじゃない。

悪い噂も全部誤解は解けているみたいだし、ビクビク過ごすことない。
私たちは、何も悪くないんだから。

ちょっと心に余裕ができたおかけで、梨華の事も優しい気持ちで見守れそうな気がする。
瞳ちゃんに、またねと言っていったん家に帰ってから、梨華を迎えに行った。

「ままぁ~!」
久しぶりに、梨華と少し離れた時間を持てたおかげか、いつもより一段と愛しく思えた。

「梨華、帰ろっか。先生、ありがとうございました。」
おばあちゃん先生は、とても穏やかにほほえむ。

今日は、優しい気持ちで旦那にも接することができそうだな。
梨華と手をつないで、歌いながら家に帰った。

もう気持ちは戻らない



「ただいま。」
「おかえりなさい。」

久しぶりに笑顔を向けて旦那の顔を見た、つもりだった。

「はぁ……なんでいつもそんな顔してるの?帰ってくる気なくす。」
どうやら、私の顔は引きつっていたみたいだ。

私は、またイラッとしてそのまま無言で梨華の元へ行った。
旦那との関係がどんどん悪化していく。

きっと、修正しようと思えばすぐできることなんだけど、できない。
以前のように、どちらからともなくじゃれて、笑い合って、梨華をかわいがり、たわいもない会話をして……。

頭の中ではそんな想像ができているのに、どうしても実行できない。
旦那を見ると、イラッとしてしまう。

原因は、きちんと分かってる。
梨華と私がつらい思いをしている時に、気持ちに寄り添ってくれなかったから。
私を罵倒するような言葉を浴びせたから。

例え、旦那に悪気がなくても、許せないのだ。
本心で思っていたら、なおさら許せない。

許そうと思えばできそうだけど、できない。
もう、私の気持ちは修復できそうにない。

「ご飯は?」
一応、聞いてみる。

「食べてきたからいらない。」
だったら、ご飯いらないって連絡してよ!

前はちゃんと連絡くれたのに、このタイミングでなぜ連絡しない?
せっかくご飯を用意しておいたのに、無駄じゃないか。

嫌がらせなんじゃないかと思ってしまう。
不満を怒鳴りつけて言いたいけど、梨華がいるから何とか言葉を飲み込んだ。

「梨華?幼稚園どうだった?」
旦那が、梨華の機嫌を伺うように聞く。

「……まま…。」
梨華は、私の陰に隠れて答えない。
梨華は私の気持ちをよく察してくれる子で、ママがパパを良く思ってないという空気が分かるのだろう。

「楽しかったよね、梨華?」
私は、梨華までパパの事を避けてはいけないと思い、話すように促した。

「うん!たのしかったよ!ねぇまま、えほんよんでー」
梨華は笑顔で旦那に答えるも、すぐに私と関わりたがった。

赤ちゃんじゃなくなっても、いまだに何でもママじゃなきゃ嫌な梨華。
今は、特に精神的に不安定な状況だから、絶対的な信頼をおける私から何もかも離れたくないんだろう。

ママがパパと楽しく話さないなら私も!って所だろう。
旦那は、これが面白くないんだと思う。

「こんなに母親にべったりで、だから自立心がない心の弱い子なんじゃない?だから、いじめられるんじゃない?」
旦那は、嫌みたっぷりに言う。

私は、聞いてないフリをして梨華に言う。
「梨華、一緒にお風呂入ろ?それから絵本読んであげるから!」
そう言って、その場から逃げた。

今すぐに、何でもいいからその辺の物を旦那にぶん投げてしまいたかった。
いつから、旦那はこんなに口が悪くなったんだろう?
こんな事を言う人だっただろうか?

この家にいたら、イライラして気がおかしくなりそうだ。
梨華には当たらないように……。
必死で冷静を装いながら、早く寝ることに努めた。

そして次の日、いつもより旦那が出勤するのが遅かった。
旦那は梨華に行ってきますと言って、キャリーバッグを転がして家を出て行った。

このまま離婚かなぁ?なんて、ぼーっと考えていると、旦那からメールが来た。
【今日から1週間、ニューヨークに出張だから】

……なんだ。
ほんの少しだけホッとしている私は、少なからず旦那とは離れたくないんだろうか。
それとも、金銭的な心配だろうか。

それから1週間が過ぎても、旦那は帰ってこなかった。
出張が長引いてるらしい。
本当はどうだから知らないけど、私は気が楽だった。
旦那がいない間、とてもゆっくりした気持ちで過ごせた。

そして、冬休みに入る前の最後の登園日。
「梨華ちゃん、冬休み明けにはクラスに戻れるといいかなと思っています。」

おばあちゃん先生にこう言われて、安堵した気持ちと不安な気持ちと半々だった。
「はい。冬休みの間、精神的なケアをたくさんします。」

やっと、しばらく幼稚園がお休みだ!
梨華にたくさん愛情を注いで、自信を持たせてあげなくちゃ!
幼稚園が終わり、家に帰ってからすぐに荷物を車につめ、私の実家へ向かった。
じぃじやばぁばとクリスマスパーティーをしたり、お正月を過ごしたり、私も梨華もとても充実した冬休みを過ごした。

このまま離婚届を書いて、幼稚園を辞めて、実家で過ごしていたい……。
そう思わずにはいられない程、居心地の良さにのめり込んだ。

旦那からの連絡はなかったし、しなかった。
本当にこのまま別れるのかな、と思った。

それでもいい、と思う自分の中に、少しだけためらう気持ちがあるのは何故なんだろう。
幼稚園の問題か、金銭面か、シングルマザーになることへの不安か……。

ただ単純に、まだ旦那の事が好きなのか。
私の中のためらう理由は分からないけど、自分があんな行動をとるなんて想像もしなかった。
きっと、この行動は本心の表れなんだと思った。

次回は来週公開~【第13話・私の帰る場所
ライター O. 2児の母です



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