
友美は、また平穏な生活を手に入れることができた。桜子さんが引っ越すという事を本人から聞き、別れを告げる。やっと、幸せな生活を取り戻した友美の身に、新たな変化が訪れた。
繰り返される物語へ~いつか終わることを信じて~
「ママ!行ってきます!気をつけてかえってね!」
「ありがとう。行ってらっしゃい~。」
梨華は、この春から幼稚園の年長さんになった。
年少さんの時は特別クラスに通ったりと、いろいろ大変な事があったけど、あれから順調に幼稚園生活を送っている。
年中さんになって落ちついた頃から、また習い事を始めたりした。
幼稚園でのお友だちや習い事先でのお友だち、たくさんの人間と関わったり、さまざまな経験をして、梨華自身も精神的にたくましくなっていった。
今では、たまにお友だちと喧嘩をして帰ってくる。
梨華も多少なりとも言い返したり、やり返してきたりするみたい。
幼稚園に入園したばかりのあの頃には考えられなかったけど、これも成長の証だと思う。
子供同士できちんと仲直りしてくるし、自分自身で幼稚園生活を送っている。
優しくて、思いやりがあって、繊細な梨華には変わりないけど、なんだか頼もしい存在にもなってきた。
「ただいまー!」
「パパぁ!おかえり~!」
旦那が帰ってくると、梨華は飛びついて喜ぶ。
梨華はすっかりパパっこになり、今日あった出来事をせわしなく喋り続ける。
旦那は、うんうんと目を細くして頷いた。
お姉ちゃんに
家族で仲良く夕食をとった。
すると、旦那が「あ!」と思いだし私の顔を見て言う。
「今日、健診だったでしょ?分かった?」
私は、にやにやしてためらう。
「そーだよママ!どっちだった?」
私はしばらく旦那と梨華の顔を交互に見つめ、「はーやーくー!」と言われながら、焦らして焦らしてやっと言った。
「男の子でした~!」
『うわぁ~~!』
旦那と梨華が、同時に声をあげる。
梨華に弟ができるのだ。
やっと安定期に入る所で、梨華はこの夏にお姉ちゃんになる。
「次は男の子か~!楽しみだなぁ~。」
旦那はとても嬉しそうにしていた。
「りか、いもうとが良かったなぁ~。おひめさまごっこできないじゃん~。」
梨華はちょっと残念そうにしながらも、ぬいぐるみを持ってきては「ねぇママ!抱っこってこうするの?」と嬉しそうにはしゃいでいた。
「無事に産まれてくれたら、どっちでもいいよ。」
私は少し膨らんできたお腹をなでながら、優しい気持ちに包まれる。
「最近、具合も良くなったみたいだね」
旦那が気にかけてくれる。
「うん。つわりもだいぶ治まったよ」
妊娠が発覚してすぐは、つわりが酷かったけど、旦那も梨華も常に気にかけてくれた。
特に梨華は、いつも「ママだいじょうぶ?何がほしい?」と心配してくれていた。
「ママ、ずっとかぜひいてる」と言っていたので、お姉ちゃんになるのよと明かした時には飛び上がって喜んでくれた。
『ピンポーン』
「あ!ばぁばじゃない?」
梨華が玄関へ走る。
「やっほー!ママは?元気?」
梨華と手を繋いで、小走りでリビングにやってきた。
「もー!お義母さん!また急に来て!連絡入れてって言ってるでしょ?」
私は、会うなりお義母さんに言う。
「あははは!ごめんごめん!今日健診だって言ってたじゃない~!どうだった?」
お義母さんはケラケラしながら言った。
「おとうとだよ~!」
梨華がぴょんぴょんしながら答える。
「なんだかんだ、梨華も弟が嬉しいみたいだね。」
旦那と私は、笑い合って話した。
「友美ちゃん!これこれ!腹帯ね!」
「ありがとう~!梨華の時のじゃもう古くて~。」
私は、いつからかお義母さんとこんなにもフランクに話すようになっていた。
辛かった時期、陰ながら支えてくれたお義母さん。
いつもはぐいぐい来る人だけど、あまり突っ込んでほしくない時や、夫婦の問題などはそっと見守ってくれる。
私たちは、まるで本当の親子のように仲良しになっていった。
そして、嬉しいお知らせがもう一つ。
「どうだった?」
「せーので言おうよ!」
『せーの・・・』
『男!・・・きゃあぁ~』
私たちは、大いに盛り上がった。
瞳ちゃんのお腹にも、赤ちゃんがいるのだ。
それも、出産予定日が1日違い。
そして、同じ男の子。
「もー本当奇跡だわ!」
「ねぇ~!本当本当!」
「今思えば、2人で検査薬して笑えたね。」
妊娠が発覚する前の事。
最近具合が悪いなと思っていた私は、瞳ちゃんに相談した。
「もう更年期かな?」なんて言って笑いながら。
すると瞳ちゃんが、「私生理来ないんだよね。だるいし、食欲ないし。……友ちゃん……。」
瞳ちゃんが、物言いたげに私の顔を見る。
私は目を見つめられ、ハッとした。
「あ・・・来てない!・・・あれ!?」
私たちは一緒に薬局に向かって、同時に検査薬を試した。
そして、一緒に産婦人科に向かった。
瞳ちゃんは長いこと二人目不妊で悩んでいたから、泣いて喜んでいた。
私は、いつかは・・というぼんやりした感覚だったので、驚きと嬉しさであまり実感がなかった。
「お互い、元気な子を産みましょ」
「そうだね。よし!男の子の服でも見に行こっか!」
そして幼稚園の夏休みに入った頃。
先に私が、2日違いで瞳ちゃんが出産した。
どちらも元気な男の子で、母親たちも健康だった。
お産を終えてすぐに連絡を取り合い、お互いの健闘を称えた。
退院してからは、幼稚園の夏休みに入っていた事もあり、梨華と赤ちゃんを連れて実家に里帰りをした。
旦那は、時間が取れるとしょっちゅう会いに来てくれた。
「梨華はすっかりお姉ちゃんだな~。」
「もう、ずっとこんな感じなのよ。」
梨華は弟が可愛くて仕方がないようで、横にぴったりついてずっと赤ちゃんを眺めていた。
手を握ったり、お腹をぽんぽんしてあげたり、おもちゃをカラカラ鳴らしてあげたり。
不思議な事に、梨華が側から離れると「ふえぇ」と泣き出してしまう。
梨華が、「ねぇねはここだよー」と側に寄ると泣きやむのだ。
「この子はママを間違えてないか?」
私と旦那は笑い合い、姉弟の様子を微笑ましく見ていた。
それから夏休みいっぱい、実家で過ごして体を休めた。
私は屈しない
秋になって幼稚園が始まると、お母さん方や先生方から「おめでとう~!」と言われた。
瞳ちゃんと並んで、赤ちゃんを抱っこしていると余計目立って、本当にたくさんの人がお祝いの言葉をくれた。
でも、平和になった幼稚園だと思ったけれど、小さな問題が浮上していた。
幼稚園での、次のボスママが決まったのだ。
桜子さん程ではないが、仕切りたがりで、ベテランのお母さんだからか威張りたがり。
その人物は昼間さんだった。
目をつけられたお母さんが、若干の仲間はずれになっているらしい。
どうして、こうも同じ問題が繰り返されるのか。
私には、こんなに下らない事をする理由が理解出来ない。
けれど・・・女たちは、母親たちはこの小さな世界の中だからこそ、ママ友カーストを決めずにはいられないのだと思う。
あそこの旦那よりは、うちの方がまし。
あの家庭よりは、ウチの方が裕福。
あの子よりは、ウチの子の方が優秀。
あの人よりは、私の方が外見が良い。
あの家族より、ウチの方が幸せ。
こうして、腹の内で自分と他人との順位をつけては自己満足している。
キッパリと物を言える性格の人間たちが群がって、自分たちはトップにいると思い込み、堂々と威張り、中学生と変わらないような幼稚な行動を取っているのだ。
きっと、いつになってもなくならないと思う。
女の人は、特にこういう生き物なのかもしれない。
私は、二度とつらい思いをしたくない。
梨華に、あんな思いをさせたくない。
だからもう、こんな問題にはかかわりたくもない。
だけれども、見て見ぬふりはしたくない。
私は絶対に、あの人たちの同類にはなりたくないから。
私には、味方もいるから。
だから……。
「ねぇ、瞳ちゃん。あのお母さん、昼間さんのグループの人たちに無視されてるんだって。」
「……じゃあ、挨拶しに行ってみよっか!」
「うん!」
『おはようございます。』
「あ・・・おはようございます。」
全てのパワーを子供への愛情に向けられますように。
全ての母親たちが、優しい気持ちで過ごせますように。
ライター O. 2児の母です