【ママ友小説】憧れた生活~母子ともに幼稚園生活を楽しんでいた友美はボスママの本性に幻滅する

【幼稚園のママ友トラブル~ママ友カースト第5話】
友美は娘の通う幼稚園でママ友ができた。娘の梨華も、幼稚園での生活が順調で楽しい毎日を送っていた。梨華は優秀で一目置かれるようになっていた。しかし楽しい幼稚園生活が、まるで夢だったかのように消えていく。




悪い噂が立つと同時に私たちを避けるようになったママ友

「ねぇ、聞いた?佐藤さんって不倫してるんだって!」
「佐藤さんの旦那さん、DVらしいよ……。」
「翔くん、佐藤さんの知り合いのコネでモデルやってるんだって。」

佐藤さんと翔くんが特別教室に通うようになった少し前から、こんな噂が流れ始めた。
まったく信じがたいけど佐藤さんは私たちを避けているし、本当のところを確認しようがない。
私は、この話題を振られてもさり気なく話題をそらすようにしていた。

佐藤さん、大丈夫かな……。

そして、佐藤さんが特別教室に通い出して二週間たったころ。

「あ!佐藤さん!こんにちは!」
「……あ、こんにちは。」

買い物の途中で偶然、佐藤さんに会った。
ちゃんと会話をするのは、もう1カ月以上ぶりのことだった。

「……お久しぶりですね。最近……。」
見かけなったから、と言いかけて私は口を閉じた。

「翔くん、こんにちは。」
「……こんにちは。」

「これから、雑誌の撮影に行くの。専属モデルの雑誌が増えてね、最近忙しくて……。」

私は、幼稚園の特別教室に通っている理由は本当にそれだけだろうか?と、疑問に思っていたが、何も聞けなかった。

「そうなんですか!翔くん、すごいね~!頑張ってね!じゃあ、また~。」
私たちは、笑ってその場をあとにした。

悪い噂のあるママ友の子どもと遊んではいけないと子どもを巻き込むボスママ

「昨日、久しぶりに佐藤さんに会いました。」
桜子さんに、ポツリとつぶやいてみた。

「そう……。」
桜子さんは、佐藤さんの様子を聞いてくる様子もなく
「今日ウチ、来る?」
と笑った。

あれだけ仲良くしていたのに、おかしい。
桜子さんも、佐藤さんの噂話を楽しそうに話しているし。
一体、誰があんな噂を流したんだろう。

「佐藤さんの噂、本当なんですかねえ?」

桜子さんに聞くと、彼女は笑って答えた。
「本当じゃなきゃ、噂なんて流れないでしょ?」

桜子さんは、佐藤さんの不倫とかに幻滅して避けるようになったのかな。
それでも、もし本当に旦那さんがDVなら助けてあげるべきじゃない?
でも……私はやっぱり信じられない。

佐藤さんの事が気になってしかたがなかった。

するとある日、梨華が突然言い出した。
「しょうくんともうあそんじゃいけないの~?」

「え!そんな事ないでしょ!?誰かに言われたの?」
「ゆいちゃんがいってたよ?ゆいちゃんのママがダメっていったんだって。」

桜子さんだ……なんで?

自分の娘にそんな事言うなんて!
そんなに佐藤さんの事が嫌いになったの?
でも、だからって、子供同士の関係にまで影響を与えなくっても良いのに。

私は、もう我慢できずに佐藤さんに連絡をした。
メールではきちんと答えてくれないかもしれないと考え、電話をかけた。

「もしもし、こんばんは。あの、佐藤さんの事が心配で…気になって…。」

私は、佐藤さんの変な噂が流れていること、特別教室に通っている理由など、できれば話しを聞かせてほしいと言った。

佐藤さんは、きっと泣いていた。時々、鼻をすすらせて声を震わせながら言った。
「明日、会える?工藤さんには内緒にして。」

私は、佐藤さんを家に呼ぶ事にした。

同じグループにいたママ友親子が特別教室へ通うようになった本当の理由とは

「どうぞ」

佐藤さんは、にこやかだった。
「お邪魔します、急にごめんね。」

佐藤さんはスタイルが良くて、今日も細身のデニムパンツを格好良く履きこなしている。ボルドーでハイネックのニットノースリーブが秋らしくてとてもお洒落だ。
170㎝近い佐藤さんが着ると、モデルさんのよう。

「あれ?翔くんは……?」
「幼稚園よ。教室でも、私がいることもあるけど、基本的には皆と遊んでるの。わざわざ登園の時間とお迎えをずらして特別教室に行ってるのは、私のせいなのよね。」

お茶やお菓子を用意したが、ゆっくり談笑する間もなく、座って私の顔を見るなり佐藤さんは泣き出してしまっていた。
「無理して話さないでくださいね。落ち着いたらで……。」



佐藤さんは、静かに泣き続けた。
そして、少ししてから話し始めた。

「翔の雑誌で、夏休み中の特別企画があってね、女の子のモデルを探していたの。出来たら翔のお友達で、事務所に入っていない一般の子で。特別企画の写真の評判が良ければ、違う雑誌に入れて貰えるって話しだった。
一般のモデルさんは、同じ幼稚園のセシルちゃんにお願いしたの。それで、企画の評判も良かったし、翔はモデルの仕事が増えたの。セシルちゃんも、スカウトされて読者モデルを始めたんだよ。」

セシルちゃんはママがフランス人。ハーフでとってもかわいい。モデルをするのも納得だ。

「このモデルを探しているって話しをね、工藤さんもいた時のランチ会で話したの。ただの近況報告って感じでね。そしたら、ゆいちゃんをモデルにしてほしいって言われて。私、皆の前で断っちゃったの……。」

佐藤さんの目から、また大量の涙があふれた。

「その時は工藤さんも笑ってたのに、帰ってからメールが来たの。皆の前で恥をかかされたって。もう、関わりたくないとか言われて。その何日か後には、もう皆が噂していた。私の不倫とか、旦那のDVとか。全部嘘!あり得ない!翔だって、頑張ってオーディションを受けてキッズモデルになったのに!」

佐藤さんの涙は止めどなくあふれた。
怒りからか、悲しみからか、ひざが震えていた。

「……もしかして、噂を流したのって……?」

「工藤さんだよ。あの人しかいない。幼稚園の廊下ですれ違った時に、大変ですねって笑いながら言われた。噂のせいで、私は皆から避けられるようになって、翔もあいさつしても無視されるようになった。」

「だから、登園時間をずらして特別教室に?」

「私、もう耐えられなくて。先生にも相談したの。まわりが落ち着くまで、特別教室に通ったら?って言ってくれて。翔は今まで通り皆と遊ばせてもらっているし、私がとにかくお母さん達に会いたくなかったの。特に桜子さんとね。」

そういう事だったんだ。なんて、幼稚な理由!なんてひどいことをするんだろう。

桜子さんの本性を見たようで、ゾッとしたと同時に、すごく幻滅した。
いい人だと思ったのに。

いつか、旦那が言っていた『腹黒そうな人』という言葉がよみがえってきた。本当にその通りだ。

「佐藤さんは何も悪くないのに!こんな噂流されて、わざわざ特別教室にまで通って!ひどい!どうにかならないんですかね?」

私は、くやしくてたまらなかった。佐藤さんが、かわいそうでならなかった。

「噂は一人歩きしちゃって。もうどうしようもないの。一応、噂については一生懸命否定したんだけどね。ほら、女の人は噂話が大好きでしょ?人の不幸は蜜の味でしょ?」

佐藤さんは、力のない笑顔を見せた。

「でも……!」
「一ノ瀬さん、聞いてくれてありがとうね。キッズモデルのお母さん達にも、こんなこと話せなくて。」

佐藤さんは優しくほほ笑んで、それからお茶を飲んだ。
そして、静かに言った。

「まさか、幼稚園で自分がこんな目に会うなんてね。ドラマの世界みたい。こんな事、本当にあるなんて。」

本当に、ドラマの世界だ。

私が憧れていた幼稚園生活は、普通に子供達の送り迎えして。たまには、お母さん同士でお茶に行ったり、ランチにったり。毎日平凡に平和に過ごして、子供たちの成長を見守って。

こうして、小学校、中学校、高校、できたら大学を卒業するまで子供たちもお母さん同士も仲良くして行けたらって思ってた。

なのに、今は憧れていた幼稚園生活とはほど遠い。
こんな、いじめのような事が親になってもあるなんて。しかも、桜子さんが始めた事。
もう、ため息しか出てこない。

「いつでも、相談してください。何の力にもなれないけど……。」
私は、こう言うのが精一杯だった。
「ありがとう。今、考えてる事があってね。」

ボスママに歯向かう勇気のない友美は何もできなかったが新しいママ友ができる

こうしてこの三日後から、翔くんはバス通園になった。自宅は幼稚園まで歩いて10分かからない場所にあるけれど、バス通園なら他のお母さん達にも会わなくて済むし、翔くんも今までのようにクラスメイトと一緒に過ごす事ができる。

私はというと、桜子さんとまともに会話をしたくない気分だった。
けれど、無視したりはできない。

なぜなら、桜子さんはこの園のボスママだからだ。私だって、変な噂を流されたりはしたくない。だからといって、桜子さんに刃向かうほどの勇気もなかった。
でも佐藤さんの事については、桜子さんを許せないと思っていた。

そんなある日、私に新しいママ友ができる。
そしてこの事がきっかけで、私の平和な生活が一気に崩れ落ちていった。

次回は来週公開~【第6話・女の友情~気の合うママ友ができたのをきっかけにボスママと距離を置いた友美だが

ライター O. 2児の母です



SNSでもご購読できます。