
~私の息子は保育園に通っている。そこにはとても気の強いママがいて、そのママは自分が正しいと思い込み、自分の価値観を周りに押し通すという困ったところがある。
それがたとえ間違ったことだとしても、そのママは絶対に意見を曲げない。周りが何を言っても聞く耳を持たないから困ってしまう。このままそのママの暴走を止めることができずに保育園生活を送らなければいけないのだろうか……?~
私には3歳の息子がいる。名前はハルト。1歳の時から保育園に通っていて今年で3年目になる。
入園当初、私は
『保育園のママは、みんな仕事をしているからゆっくり話すこともないんだろうな』
と思い込んでいた。
でも、実際はみんな仲が良くて保育園で会うと時間ギリギリまでおしゃべりしている。プライベートでもお付き合いしているママもたくさんいた。
私もママ友と子供達とみんなで遊びに行ったり食事に行ったりして、ママ友との付き合いを楽しんでいた。
ある日、ハルトのクラスにお友達が入園してきた。佑真(ゆうま)くんという男の子で、ハルトはすぐに仲良くなった。
私がハルトを迎えに行くと、佑真くんママがいてハルトが佑真くんママと楽しそうに話していた。私が
「ハルト。お待たせ。」
と言うと、ハルトは佑真くんと手を繋いだまま離さない。
「ハルト帰ろ?」
と言うと、
「ヤダ。まだ佑真くんと遊びたい。」
とハルトは首を振りながら言った。
「佑真くんもおうち帰るんだよ?ハルトが帰らないと佑真くんも帰れないでしょ?」
と私が言うと、
「じゃあ、佑真くんと帰る!」
と言って2人で靴箱のところまで走っていった。
「佑真くんママ、すみません。お急ぎじゃないですか?」
と佑真くんママに言うと、
「いえ。大丈夫ですよ。ハルトくんが仲良くしてくれてすごく嬉しいですし。よかったら一緒に帰りませんか?」
と佑真くんママがニコリと微笑みながら言った。
「おうちどこですか?」
と私が聞くと、
「さっきハルトくんが教えてくれたんですけど、ご近所さんなんですよ。」
と佑真くんママが嬉しそうに答えた。
「じゃあ、一緒に帰りましょうか。」
と佑真くんママと笑いながら子供たちの元へ向かった。
ハルトと佑真くんが手を繋ぎ歩いている後ろを佑真くんママと歩いていた。すると
「最近引っ越してきたばかりだし、保育園でもお友達ができるかどうかすごく心配してたんですけど、ハルトくんがすぐにお友達になってくれたって佑真から聞いて、すごく嬉しかったんですよ。」
と佑真くんママが言った。
「いえいえ。こちらこそハルトと仲良くしてれてすごく嬉しいです。ハルトも佑真くんのこと大好きみたいで、家で毎日佑真くんの話をしてるんですよ。」
と私が言うと、
「だから私、ハルトくんママともずっとお話してみたかったんですよ。今日会えて本当によかった。」
と佑真くんママが笑顔で言うから照れてしまった。
それから帰る間に色んな話をしていると、実は同い年だったこと、出身地が同じ県だったことなど、ちょっとしたことがシンクロしていたため、佑真くんママとすごく仲良くなることができた。
「じゃあ、また。今度一緒にお茶でもしましょう。佑真くんまたね。」
と挨拶をして佑真くんママと佑真くんと別れた。
家に帰ると、ハルトが玄関で靴を並べ、洗面所に行き手洗いとうがいをしていた。
「ハルトどうしたの?いつもはママと一緒じゃなきゃやらないのに。」
とハルトに言うと、
「だって、佑真くん1人でやってるって言ってたもん。だから僕だって1人でできるんだよ。」
と自慢気にハルトが言った。
「そっか。佑真くんもハルトも偉いね。じゃあ、終わったら教えてね。」
と言って私はリビングに戻った。
『佑真くんママはきちんとしつけが出来ててすごいわ。私も甘やかしてばかりいないでハルトのことちゃんとしないと』
と思いながら夕飯の支度をしていた。
その夜、ハルトは佑真くんのことばかりを話していた。ほんとに佑真くんのこと大好きなんだなって思っていた。
それからしばらくして、保育園から帰ったハルトが珍しく塞ぎこんでいた。
「ハルトどうしたの?」
と聞くと首を横に振るだけで何も答えてくれなかった。お友達と喧嘩でもしたのかと思い、その日はそっとしておくことにした。
そして次の日のお迎えの時間、佑真くんママと一緒になった。すると佑真くんママが
「昨日はごめんなさい。私ついムキになっちゃって…。」
と言ってきた。私は何の話なのかわからなかったので、
「え?昨日って?」
と聞き返した。
すると、
「あれ?ハルトくんから聞いてない?」
と佑真くんママが首を傾げた。
「昨日保育園から帰ってきたときハルトの元気がなかったけど何も言わないから…。お友達と喧嘩でもしたのかと思ってたんだけど。」
と私が言うと、
「実は昨日私がハルトくんのこと叱っちゃったのよ。」
と佑真くんママが言った。
「え?そうなの?ハルト何か悪いことしてた?」
と私が慌てて言うと、
「私が昨日お迎えに行ったときに佑真が泣いてたの。その時そばにハルトくんがいたから、何で佑真が泣いているのか聞いたけど何も言ってくれないし、佑真は泣いてばかりだしで私もついイライラしちゃって。つい2人のこと怒鳴っちゃったのよ。そしたらハルトくん走っていなくなちゃって。追いかけようと思ったけど佑真も泣き止まないからほおっておけなくてね。ハルトくんのこと気になってたんだけど…。」
と佑真くんママが説明してくれた。
「そうだったの…。それで?佑真くんが泣いてた理由はわかったの?」
と聞くと、
「ううん。佑真が全く話してくれないからわからなくて…。」
と佑真くんママが首を振りながら答えた。
「私もハルトに聞いてみるね。」
と言い終わるのと同時に、佑真くんママが口を開いた。
「それはいいけどさ。ハルトくんって怒られるとああやってすぐ逃げるの?人の話をきちんと聞くことできないの?普通あそこで逃げないよね…。」
とちょっと怒った感じで言った。
突然口調が変わったことにちょっと驚いたけど、
「あ、ごめんなさい。ハルトあまり怒られ慣れてないからかも。旦那とか祖父母とかがだいぶ甘やかしてるから…。」
と苦笑いしながら言うと、
「何のんきなこと言ってるの?男の子なんだからしっかりしつけないとダメな大人になっちゃうかもしれないでしょ?そこはハルトくんママが厳しくしないと。うちは怒られてもきちんと話を聞くようにしつけてるのよ。でもそれって普通のことじゃない?やらないほうがおかしいのよ。」
と佑真くんママが一気にしゃべった。
佑真くんママの勢いに押され、
「そ、そうよね。」
としか言えなかった。
それからというもの、佑真くんママは
「うちでは…」とか、
「普通のこと」という言葉を使い、色んなことを私に意見するようになっていった。
ある時には、他のママに
「うちでは子供の可能性を引き出してあげるために習い事をさせているのよ。それって普通のことなんだからやってないのは子供が可哀想よ。」
と言って責めていたりして、他のママの間で佑真くんママの噂が広まり、佑真くんママを避けるママが増えてきていた。
そんなある日、佑真くんママと話していると突然
「子供って結局母親の言うことを聞くんだから、母親がしっかりしつければいいのよね。ま、普通のことだけど。でも、そう考えると動物と同じようなものよね。」
と笑いながら佑真くんママが言った。
私は
「何言ってるの!動物と同じなんて…。佑真くんママひどいわよ!子供のことそんな風に言うなんて…。」
とつい怒鳴ってしまった。
突然私が怒鳴ったことに驚いた佑真くんママだったけど、みるみるうちに顔が赤くなり怒った顔になっていくのが分かった。
「なっ…。何なの?その言い方!ちょっとした例えじゃない。だいたい子供のしつけもちゃんとできてない人にそんな風に言われたくないわ!」
と佑真くんママが怒鳴った。
「例え話になんてなってないじゃない!あれって佑真くんママの本心よね?ていうか、いつもそう。自分の話を世の中の常識みたいな言い方してさ。佑真くんママが言うことが正しいなんてことないんだから。他のママだってそう思ってるんだからね!自分の価値観を人に押し付けるのやめたら?」と言うと、
「押し付けてなんてないわよ!私はただ正しいことを言ってるだけでしょ?」
と佑真くんママが言った。
「はぁ?何言ってるの…」
と言いかけた時、
「ちょっストップ!」
と周りにいたママ達が止めにはいった。
「やめなさいよ。子供達に聞こえるわよ?」
と言われ私は我に返った。
「あ…。佑真くんママ…」
と言うのと同時に、佑真くんママは走り去っていった。
それから佑真くんママには避けられるようになり、長いこと話をしていない…。
「あの時はごめんね」
って謝りたいのにその機会さえなくてどうしていいかわからないまま時が過ぎていく。
他のママ達は、『ハッキリ言ったことは佑真くんママにとってよかったんだよ』と言ってくれたけど、あんな言い方したことをちょっとだけ後悔している。
時間が経てばまた仲良くできるはずだといつも保育園で佑真くんママの姿を探す私だった…。
ライター:ユーア
息子たちと娘、3人の子供がいます。