
~あらすじ~
幼稚園で子供たちが遊んでいると、ちょっとしたケガをするときがある。
子供ならよくあることなのだが、1人のママはそれを大問題にしてしまう。
幼稚園の先生や保護者を巻き込み大騒ぎしないと気が済まない。
そんな過保護すぎるママとそれに巻き込まれた私のお話。
~本文へ続く~
私の娘、エリが通う幼稚園はマンモス園と呼ばれる所。
ひと学年に何人いるんだろう?と思うくらいたくさんの園児が通っている。
たくさんの園児が通うのだからたくさんのママもいるわけで・・・。まわりを見渡せばいろんなママがいてちょっと面白い。
若くて今風のギャルママだったり、いかにもお金持ちっていうようなブランドママだったり、お勉強ママだったり、普通の地味な感じのママだったり……。
私はどっちかというと地味なママに入る。でもその辺は気にしてなかった。
これだけの人数がいるんだから色んなママがいて当たり前だし、自分がどうかなんて気にしたことなかったから。
エリが入園してからお弁当を作ったり、毎日送り迎えしたりとバタバタと毎日が過ぎていった。
数名だけど仲のいいママ友もできて、順調に幼稚園児のママをやっていたある日……。
エリを送り出した後、担任の先生に呼ばれ職員室に向かった。
職員室の脇にある個室へと通され、先生と対面する形で座ると先生が静かに話し始めた。
「連絡帳に書こうと思ったのですが、やはり直接お話をしたほうがいいと思いまして・・・。」
私は何のことか全くわからず、ただ黙って聞いていた。
「実は昨日ヨシカちゃんのママから連絡がありまして・・・。エリちゃんがヨシカちゃんのことを突き飛ばしてケガをした・・・と。」
私は思わず
「え?」
と、聞き返してしまった。
昨日幼稚園にお迎えに行った時にヨシカちゃんのママに会ったけど、普通に笑顔で挨拶して帰ったから。
出典:写真AC
「ヨシカちゃんのケガって・・・ひどいんですか?」
と尋ねると、
「あ、いえ。かすり傷だと伺っています。」
と、先生が答えた。
「エリがヨシカちゃんのことを突き飛ばしたところは誰も見てないんでしょうか?ヨシカちゃんはその時泣いたりしてなかったんですか?」
と、尋ねると、
「それが、いつヨシカちゃんとエリちゃんがケンカしたのかわからないんです。ヨシカちゃんが泣いていたということもなかったですし、他のお友達や先生からもそんなことを聞いてなくて・・・。」
と、先生は少し困った顔をして答えた。
「わかりました。今日帰ってからエリに聞いてみます。ご迷惑おかけしてすみませんでした。」
と頭を下げると、
「子供同士の軽いケンカですから、あまり気になさらずに。エリちゃんとヨシカちゃんにもそれとなく聞いてみますので大丈夫ですよ」
と先生に言われ、私は深々と頭を下げて職員室を後にした。
エリがヨシカちゃんを突き飛ばした・・・?腑に落ちないまま帰宅し、降園の時間を待った。
お迎えの時間、ヨシカちゃんのママを見つけて声をかけた。
「ヨシカちゃんママ!昨日はエリがヨシカちゃんのこと、ケガさせちゃったみたいで・・・。ごめんなさい。」
私が頭を下げると、
「いいのよ~。子供同士のケンカなんてよくあることですし、ケガといってもちょっと擦り傷ができただけですから~。」
と、ヨシカちゃんのママは笑いながら言った。
私はヨシカちゃんのママは怒っているものだと思っていたからちょっとホッとした。
「ほんとごめんなさい。エリっておてんばで困っちゃいますよ~。」
と、私が言うと、ヨシカちゃんのママの表情が一変した。
「……エリちゃん元気ですものね~。うちのヨシカはおとなしくて弱くて困りますわ。エリちゃんみたいにおてんばなくらいのほうがいいんですよ~。」
と言うヨシカちゃんママの顔は決して笑顔ではなかった。
パッと見た感じでは笑顔なんだけど、目が笑っていなかったのだ。
何か悪いことでも言ったのかな?と思ったけど、子供達が教室から出てきたのをきっかけにその話は終わり、お互いそのまま帰宅した。
家に帰ってから私はエリに
「昨日ヨシカちゃんとケンカしちゃったんだって?」
と、聞いてみた。すると
「うん……。」
と答えたので、
「どんなに仲がいいお友達でもね、ケンカすることはあると思うよ。でもね、ケンカしてもちゃんとごめんなさいって言って仲直りすることが大事なんだよ。」
とエリに言うと、
「だって……。」
と、言葉を詰まらせた。
出典:写真AC
私が
「どうしたの?」
と、エリに聞くと
「だってね、ヨシカちゃんがエリのことサルみたいって言うんだもん。ヨシカちゃんに何でエリがサルみたいなの?って聞いたら、ヨシカちゃんのママがエリは野蛮だからサルと一緒だって言ってたって……。よくわかんなかったけど、なんかすごく嫌な気持ちになったからヨシカちゃんのことドンってやっちゃったの。」
と泣きながら答えた。
「そう……。そんなことがあったんだね。でもヨシカちゃんのこと押しちゃったのはいけなかったね。ちゃんとごめんなさいできた?」
と聞くと、
「うん。ごめんなさいしたよ」
と言うので、エリのことをギュッと抱きしめて
「ヨシカちゃんのママはきっとエリのこと元気な子だって言いたかったんじゃないかな?元気な子供だってことは悪いことじゃないんだよ。だからもう泣かないの。」
と言うとリサに笑顔が戻った。
その話を聞いて私はなんだかとても複雑だった。
元気でサルみたい……というところまではいいとしても、野蛮って言葉を使うのは腹立たしい。
しかもお迎えの時にそんな話は全くしていなかったから。
まぁでも、子供同士仲直りしたみたいだし、ヨシカちゃんのママもあまり気にしてなかったようだから変に騒ぎ立てるのもおかしいし、私はこの話は忘れることにした。
その後、ヨシカちゃんとエリはいつものように仲良く遊び、ヨシカちゃんママとも特に何事もなくお付き合いをしていた。
そんなある日・・・。
担任の先生からまた呼び出された。
今度は何だろう?と思いながら職員室に入ると、そこには同じクラスのママ達がたくさん座っていた。
でもそこにはヨシカちゃんのママの姿だけがなかった。
しばらくして担任の先生と園長先生が来て静かに話し始めた。
「本日はお時間を割いてお集まりいただきありがとうございます。お母様方にお聞きしてほしい話がありお声をかけさせていただきました。」
ママ達は
「?」
という顔で園長先生を見つめていた。誰も何の話なのかわかっていなかった。
園長先生が座ったところで担任の先生が話し始めた。
「みなさんのお子様が入園して数ヶ月が経ちました。みんなとても元気でいい子で。本当にかわいい子供達です。しかしやはり子供ですからケンカすることもあります。その時にはきちんとお互いの言い分を聞き、話し合いをし、納得させてごめんなさいと仲直りさせています。子供ですがゆっくりきちんと話をするとみんなちゃんと仲直りできています。ケンカして仲直りして今まで以上に仲良しになって……。そうやって子供達は成長しています。ですが……そうでないこともあるようなんです。」
そこまで言うと、先生の言葉が止まった。
少し困った顔をして園長先生の顔を見てあらためて前を向きゆっくりと話し始めた。
「ヨシカちゃんがいじめられているという話があるんです。」
その瞬間、一気に空気が変わった。ママ達も驚いた顔をして職員室がざわめいた。
「私共は、子供達から目を離さぬよう教員が数人子供達のそばについています。実際にヨシカちゃんがいじめられているような現場を見たことはないのですが、ヨシカちゃんのママから、毎日ヨシカがいじめられてケガをして帰ってくると報告がありまして・・・。」
ママ達のざわめきが増していくのを感じた。
「ヨシカちゃんのママが毎日のように園に電話をかけてくるので心配になりみなさんにお話を伺いたくて機会を設けさせていただきました。確証のない話で大変申し訳ないのですが、何かお気づきになられたことなどありましたらお話し願えませんでしょうか?」
先生は本当に申し訳ないという顔をして深々と頭を下げていた。
ママ達はそばに座っているママと話していたが、結局誰も何の心当たりもなく話が進むことはなかった。
しばらくすると園長先生が立ち上がり
「みなさん、すみません。こちらもきちんと確認ができていない状況でのお話ですし、みなさんにもお心当たりもないようですし、今日はここで終わらせていただきます。もし、何かありましたら連絡帳に書いていただいてもかまいませんし、個別にお話しに来ていただければと思います。お時間をお取りして本当に申し訳ありませんでした。ありがとうございました。」
と頭を下げた。そしてそのままママ達は職員室を出て帰っていった……。
結局、いじめなんて誰も何の心当たりがなく、その話はそこで終わりその後特に大きな問題になることはなかった。
出典:写真AC
数ヶ月後、ヨシカちゃんはパパのお仕事の都合で引っ越すことになり、転園していった。
後で聞いた話によると、あの話し合いの後もヨシカちゃんママから、どこをケガしたとかいじめられたとか毎日園に電話があり、先生方は対応に困っていたらしい。
しかし、結局ヨシカちゃんがいじめられたという事実はなく、ケガも指をちょっと切ったとか膝をすりむいたとかという日常茶飯事のケガで、決して人に傷つけられてついたケガではなかったとのこと。
ヨシカちゃんが大事で大事できっとちょっとしたケガにも過敏になっていたのかな?と思うけど、ちょっと過保護すぎるんじゃない?とあきれてしまう自分がいた。
色んなママがいて色んな子供がいて・・・。
やっぱり子育てって難しいなって改めて思った。
でも、子供の笑顔を守りたいって気持ちは私にもわかる。
エリの笑顔を見ながら私はヨシカちゃんママのことを思い出していた……。
ライター ユーア
息子2人娘1人3人の母です。