
~幼稚園で「ごめん。ちょっとお願いしてもいい?」という言葉をよく聞く。
子育ては1人じゃできないし、やっぱり助け合いは大事。
でもその『お願い』が度を越えると受けるほうも嫌になってくる。
頼み事ばかりしてくるママ友に、ノーと言えない私が振り回されるお話。~
息子のタケルが通う幼稚園は縦割り保育をしている。
園児数も少なくて、1クラス20人くらい。だから園児同士みんな仲が良いし、縦割りだから年長は下のお友達のお世話をしてくれるし、下の子は年上のお兄さんお姉さんを慕っていて、それがとても自然な感じですごく素敵だと思う。
私は、この園の雰囲気や方針に惹かれてタケルをこの幼稚園に入れた。
そして、ママ達の仲もすごくよくて、年長や年中のママはやっぱり子育ての先輩だけあって、色々わからないこととか教えてくれるし、すごく頼りになる。
同じ年少のママ同士も同い年の子供を持つママとして話も合うし、一緒にいてすごく楽しい。
でも、みんな『ママ友』っていう意識がきちんとあって、長年の友達のようにプライベートに深く入り込まないようにしている。
暗黙の了解って感じでみんな自然にそうしてるみたいだった。
そんなある日、タケルを送り出して帰ろうと思っていると、玄関に同じクラスのママ達が集まっていた。
私が
「おはよう。」
と声をかけると、一番近くにいたタクトくんママが振り返り
「あ、おはよ」
と返事をした。
ママ達の顔つきが気になり
「どうしたの?」
とタクトくんママに聞いてみた。すると
「うん。あのね。年長にマリアちゃんっているでしょ?」
と言うので
「マリアちゃん?うん。髪が長くてモデルみたいに可愛い子でしょ?知ってるよ。マリアちゃんがどうしたの?」
と答えた。
「そのマリアちゃんママがちょっとね……。」
とタクトくんママが言葉に詰まった。
するとそばにいたナツコちゃんママが
「マリアちゃんママって図々しいのよ!」
とちょっと怒りながら私に言った。
まさかそんな言葉が出てくるなんて思ってなかった私はビックリして、
「図々しい?え?なんで?」
とナツコちゃんママに聞いた。
「自分が年長のママだからか知らないけどさ、色んなこと頼みすぎなのよ!」
とさらに怒りがヒートアップしていた。
ナツコちゃんママがあまりにもひどく怒るので、私はタクトくんママに
「色んなこと頼みすぎってどういうこと?」
とコソッと聞いてみた。
「最初はたわいのない小さなお願いだったのよ。マリアちゃんの忘れ物を教室に取りに行くからマリアちゃんのことみててほしいとか、トイレに行くからちょっとバッグ持っててとか・・・。それが段々エスカレートしていっちゃったの。」
とタクトくんママが困った顔をして言った。
すると、それを聞いていたモモちゃんのママが、
「そうそう。私も最初そんな感じでお願いされてたから、普通にいいよって言って引き受けてたんだけど、それが頻繁になってきて、こっちの都合もおかまいなしだし、お礼も言わなくなったのよ。
この間なんて大きな買い物袋を目の前に出されたから不思議な顔してたら、『早く。トイレ行きたいんだけど』って当たり前のように持たせるのよ。そして戻ってきたら携帯見ながら荷物取ってお礼も言わずに帰っちゃうんだから!」
と顔を真っ赤にして怒りながら言った。
他のママ達も同じだと言いながら頷いていた。それを目の当たりにした私は
「実は私も……」
とつぶやいていた。
「え?タケルくんママも?」
とタクトくんママが驚きながら言った。
「うん……。私も最初はちょっとマリアちゃんをみてるだけとかそんな感じだったんだけど、最近ちょっと。」
と言葉に詰まると、
「どうしたの?」
と心配そうにタクトくんママが私の顔を覗き込んだ。
「マリアちゃんのおうち、私の家からちょっと先に行った所にあるんだけど、家が近いからって幼稚園のお迎えとか、習い事も一緒だからその送り迎えとかを頼まれるの。最初は軽い気持ちで引き受けてたんだけど、最近それが多くなってちょっと困ってて。」
と言うと、
「あ、昨日もそうじゃなかった?」
とモモちゃんママが言った。
「うん。昨日はすごく大事な用事があるからって頼まれて。」
と私が言うと、
「それ、嘘だよ。だって私がモモをお迎えに行った帰りに買い物に行ったら、マリアちゃんママがデパートから出てきたもの。ブランド物の紙袋たくさん持ってたよ。」
とモモちゃんママが言った。
「え?そうなの?用事が終わったら連絡するからってことで、マリアちゃんのこと夕方まで預かってたんだけど……。」
と私が言うと、
「えー。それちょっとひどくない?」
とタクトくんママが言った。
「あ、でもタケルはマリアちゃんと一緒に遊べて喜んでたし、その日しか買えない物だったから仕方なく頼んだのかもしれないし。」
と私が言うと、
「タケルくんママ、ダメだよ。嫌なら嫌。無理なら無理って断らないと。」
とタクトくんママが言った。
「う……うん。」と私は頷いた。
でも私はノーと言えない性格で、いつもそれを注意されてた。自分でもダメだなってわかってはいるんだけど、どうしてもノーと言えなくて。
「もう……。タケルくんママお人よしなんだから。マリアちゃんママのお願いに付き合ってたらもっとエスカレートするよ?」
とタクトくんママがため息をつきながら言った。
「そう……だよね。無理なら無理って断っても大丈夫だよね。」
とつぶやくと、
「そうだよ!でも、タケルくんママ大丈夫かなぁ?」
とモモちゃんママは苦笑いしていた。
それから数日後、タケルをお迎えに行くと、マリアちゃんママに会い一緒に帰ることになった。そこで
「ねぇ?タケルくんママ、ちょっとお願いがあるんだけど。」
とマリアちゃんママが言った。私はちょっとドキッとしたけど
「何?どうしたの?」
と答えた。
すると、
「今日2人共スイミングがあるでしょ?送り迎え頼んでもいいかなぁ?」
と顔の前に手を合わせながらマリアちゃんママが言った。
「どうしたの?この前もそうだったけど、急用?」
と聞くと、
「そうなの。義母が突然訪ねてくるってさっき連絡があって。買い物とか急いで行かなくちゃいけないの。タケルくんママにいつも甘えちゃってごめんね。」
と言うので、
「そうなんだ。いいよ。1人連れていくのも2人連れていくのも同じだから大丈夫だよ。」
と笑顔で答えた。
「ありがとう!ほんと助かるよ。義母ってこっちの都合おかまいなしで来るから嫌になっちゃう。」と愚痴をこぼしながら帰って行った。
それから私はタケルとマリアちゃんを連れてスイミングに行ったのだけど、マリアちゃんのタオルがないことに気が付き、急いで取りに戻った。
買い物に行っていないかも?と思いながらインターホンを押すと、マリアちゃんママが出てきた。
「あれ?」
とお互いに不思議そうな顔をして対面した。私が
「あ……マリアちゃんのタオルが入ってなかったから。」
と言うと、
「えっ!ごめんなさい。すぐに用意するわね。」
と慌てて取りに行った。
「でもよかった。もうお買い物に出かけちゃっていないかと思った。」
と私が言うと、
「あ、ちょうど出かけるところだったの。すれ違いにならなくてよかったわ。」
とマリアちゃんママが言った。
「はい。タオル。ほんとごめんなさいね。取りに来てもらちゃって。」
と申し訳なさそうに言うマリアちゃんママに
「近いんだから大丈夫よ。」と笑顔で答えた。
それからスイミングに戻り無事にマリアちゃんにタオルを届けることができ、終わった後マリアちゃんを家に送り届けた。
その時はマリアちゃんのパパが出迎えてくれたから、マリアちゃんママには会えなかった。
出典:写真AC
そして次の日、幼稚園に行くとマリアちゃんがいた。
「マリアちゃんおはよ。昨日はおばあちゃんと楽しく過ごせた?」
と私が聞くと、
「おばあちゃん?昨日は会ってないよ?」
とマリアちゃんが答えた。
「え?でも……。」
と言いかけた時にはマリアちゃんは教室に入ってしまっていた。
私は不思議だった。
『昨日確かにマリアちゃんママはお義母さんが来るって言ってた。でもマリアちゃんは来てないって言ってて……。どういうこと?』
と混乱していた。
悩みながら歩いていると、
「何難しい顔してるの?」
とタクトくんママが声をかけてきた。私が昨日のことを話すと
「もー。またやられちゃったの?ちゃんと断らなきゃダメって言ったじゃない。」
とあきれた顔をしながらタクトくんママが言った。
「え。だってマリアちゃんママすごく困った顔してたし、マリアちゃんのタオル取りに行った時も買い物に行くところだって言ってたし。」
と私が言うと、
「最近寒くなってきたから送り迎えが嫌なんだよ。適当な理由つけて送り迎え頼んでるってこと。だってマリアちゃんがおばあちゃんと会ってないって言ってたんでしょ?子供は正直だからね。」
と言うと、
「タケルくんママ、しっかりして!大人なんだから。」
と笑いながら私の肩をポンポンと叩くと「またあとでね」と言って帰って行った。
『はぁ。また言われちゃった。でも断るのってどうしてもできないのよね。』
とつぶやきながら、青い空を眺めてはため息をつき家に帰った。
私は結局それからもマリアちゃんママにはノーと言えず、相変わらず『お願い』を聞いて過ごしている。
ライター ユーア
息子2人と娘、3人の子供がいます。