【育児小説】新緑ノート第4話~夢語り

~児童館で知り合ったミサと約束して、子育て支援センターへ子供を連れて行くハルカ。
同じ3歳の男子を育てていても、ミサは自分の好きな仕事もしていて、とてもはつらつとして見える~




帰宅後、お腹を空かせたカナトを優先して、急いで昼食の準備に取り掛かるハルカ。
今日のカナトのメニューはチャーハンだ。

野菜やご飯がちょうど良く余った時にチャーハンを作って冷凍しておいたり、チキンライスをたくさん作って冷凍しておいて、食べる時に薄焼き卵だけ作ってオムライスにしたり、午前中の外出が長引いても困らない準備は常にしている。

ハルカはハルカで、レトルトのパスタソースを使ったパスタや、野菜を自分で準備して袋ラーメンを食べたりすることが多い。
自分はともかく、子どもにはできるだけ添加物を使ったものは食べさせたくない思いから、カナトの分はいつも別に用意するのだ。

同じものを一緒に食べれば一番楽ではあるのだけど、子どもが食べられないものを敢えて食べたいという、ママの身勝手な嗜好もある。
大人は、大人であることを利用していつだって勝手なのだ。

作り置きの冷凍チャーハンを電子レンジでチンしたものでも、“おいしい”と言って幸せそうな顔をして食べてくれると、できたてではないものを出した後ろめたさを感じつつも嬉しく思う。
ハルカはレトルトのミートソースパスタで簡単に昼食を済ませた。

出典:写真AC

 

ミサとの運命的な出会いに興奮冷めやらぬ様子のハルカは、児童館から帰宅して1人上機嫌だった。
カナトがするイタズラや反抗も可愛く思え、悪ふざけで返せるくらいに寛容になっていた。

いつもなら、ちょっとしたことにもイライラして怒ってしまい、一度 “怒りんぼスイッチ” が入るとなかなか切り替えられずに引きずってしまうハルカ。
そんな振り幅の極端なママを見て、カナトはどう感じているのだろうかとふと我に返り考える。

“同じことでも、その時によってママの反応が違うと情緒不安定な子どもになりやすい”
という記事をインターネットで見たことがあり、常々自分の言動や態度に気をつけようと思ってはいるのだけれど、余裕が無い時はやはり感情が先に出てしまう。

“怒らないママはいないよ”
という先輩ママの言葉にホッとしつつも、ハルカ自身の気持ちが落ち着かないうちにカナトが寝てしまった時は、特に反省の重みは大きい。

今日のように自分にとって良いことがあったり、夫が休みで頼れる人がそばにいる時は、いつも1人でバタバタ・ピリピリしているのが嘘のように穏やかな気持ちでいられる。
少しでもそういう時間やそういう日があると、このまま明日も穏やかに過ごせそう、なんて思うのだけど、そう上手くはいかない。

だから、できるだけ穏やかに過ごすために、児童館や公園などの人目のあるところに出掛けて行くのだ。
ハルカはミサに連絡をして、早速明日お弁当持参で支援センターに行く約束をした。



そして迎えた翌日。
ハルカは朝から張り切って、仕事に行く夫とカナトと自分の3人分のお弁当を作った。

昨日夕食に作った肉じゃがと、お弁当用に常時切らさないようにしている圧力鍋で作った黒豆、だし巻き玉子、ほうれん草とコーンのバター炒め、仕切り代わりのきゅうりと、彩りに華を添えるプチトマト。
カナトには、食べやすいようにご飯はおにぎりにして入れる。

出来上がったお弁当を3つ並べて、しばし達成感を味わう。
それから朝食を摂り、夫を送り出してから掃除や洗濯を済ませて出掛ける準備に取り掛かる。

いつもながらバタバタとした朝だ。

“これから出るよー”
と、ミサに一言メールをして、カナトの手を引いて支援センターへ向かった。

ちょうど施設の入り口付近でミサとケンタくんに会い、朝の挨拶を交わしてぞろぞろと中へ入った。
ハルカとカナトは初めての利用だったので、ミサとケンタくんには先に遊んでいてもらうことにして、スタッフのおばさんに簡単に施設利用についての説明を受けた。

比較的新しい施設で清潔さを保っていて、おもちゃもかなり充実している。
お昼も食べられるし、ここは頻繁に通ってしまいそうだ。

ひと通り説明を受けてミサとケンタくんが待つ部屋に入ると、ミサが笑顔で手を振っている。
彼女のはつらつとした笑顔は、周りを一瞬で明るい空気に変えてくれる太陽みたいだ。
きっと彼女の旦那さんも、この笑顔に惹かれたんだろうな、とハルカは思う。

出典:写真AC

 

カナトは、家には無いおもちゃの数々に目を輝かせて、気になるおもちゃへと一直線に向かった。
一人っ子で周りの愛情を一身に受けて、おもちゃもたくさん持っているカナトだけど、施設のスタッフの人たちの手によって丁寧に作られたおもちゃも色々用意してあって、それは魅力的である。

「ママみて!こんなのもあるよ!」
と、見たことの無いおもちゃに興奮するカナト。

「良かったね、たくさん遊べるね」
ハルカは、カナトの喜ぶ姿が堪らなく愛おしかった。

子どもたちがおもちゃに夢中になり始めたのを見届けてから、ハルカとミサは早速ママトークを始めた。

「昨日、うちの旦那にハルカちゃんのこと話したら興味津々だったよ」
「えー、そうなの?」

「うん、仕事柄音楽やってる人の知り合い多いからさ」
「そう言えば旦那さんて今は何の仕事してるの?」

「表参道でカフェやってるんだ」
「うわ!オシャレー!」

「小さい店舗だけどねー。そこもイベントスペース作ってあってライブとかできるから、ハルカちゃんやりなよ」
「えー!いいの?やれるならやりたい!…でも今は厳しいかなぁー。全然楽器触れてないし声も出ないかも」

「まぁねー、子どもいるとなかなか集中してやれないもんね」
「そうなんだよね。ミサちゃんは今もずっと踊ってるんでしょ?」

「うん、チームも組んでるんだけど、教えに行ったりもしてるんだ」
「すごーい!手に職あるって同じママとして憧れる!」

「大してお金にならないけどね、でも楽しいよ。育児の息抜きにもなってる」
「息抜き大事だよねー」

出産して半年で仕事に復帰して、子どもを保育園に預けているママもいる中で、ハルカはずっとカナトとベッタリの日々を過ごしている。
ミサのように、“普通の仕事”とは違う分野で仕事をし、それが育児の息抜きに繋がっている人もいる。

ハルカの場合は、保育園には預けずに幼稚園に行くまでは家でしっかり面倒を見て育てると決め、自分の両親にも滅多に預けること無く育児に専念している。
でも、一緒にいる時間が長い分、イライラしたり怒ってしまうことも多く、もし預け先があって外に働きに出ていたら、カナトもこんなに怒られずに済んだのかな、と考えてしまったりもするのである。

出典:写真AC

 

「ハルカちゃんもたまには旦那さんにカナトくん預けて息抜きした方がいいよ」
「そう思うんだけどねー、家族のために働いてくれてる人にワガママ言いづらくって」

「そんなのワガママって言わないよー。家事育児だって立派な仕事だよ。ハルカちゃん気張りすぎ!そこは夫婦なんだからガマンしちゃダメよ〜」
そう言ってミサはおどけながら、弾けるような笑顔をハルカに向けた。

「っていうかさ、昨日帰ってからちょっと思いついたんだけど、今度一緒に何かやろうよ!」
ミサは、自分のダンスとハルカの音楽で何かイベントができるのではないかと考えていた。

ハルカもいつかは音楽活動を再開したいと考えていて、同じように昨日の出会いの後の興奮の最中、ミサと一緒に何かできたら楽しそうだなぁ、と妄想していたのだ。
「やりたい!私の曲で、ミサちゃんに踊ってほしい!」

ハルカはミサのまっすぐさに呼応するように、素直な思いを吐き出していた。
「やろうやろう!」

2人の思いがそこでガッチリと合わさり、芽生えた夢の実現に向けたスタートが今切られた。

次回は来週公開~ママ友の距離感

ライター みらこ
3歳男児に翻弄される日々を送る音楽大好きママ



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