【ママ友小説】ママ友カースト~ 私の帰る場所

【幼稚園のママ友トラブル~ママ友カースト第13話】

友美は旦那との夫婦仲に耐えられなくなっていた。幼稚園での梨華の状態も相変わらずで、不安に押しつぶされそうになる毎日だった。幼稚園が冬休みに入り、友美は梨華を連れて実家へ戻る。実家の居心地の良さに、旦那との離婚を考えてしまうのだった。



帰る場所

明日、自宅に戻らなければいけない。
三日後には幼稚園の始業式だ。

「はぁ。家戻りたくないな。」
私のお母さんの前でぼそっとつぶやいた。

お母さんは、いつも通りの優しくて明るい声でこう言った。
「家に戻るなり、こっちにいるなり好きにしなさい。」

まるで、これでも食べなさいと言われているかのような気の抜けた回答に、私の気持ちも軽くなる。
お母さんはいつもそうだ。
深刻な問題も、まるでなんてことないような気持ちにさせてくれる。

私には、いつでも帰る場所がある。
失敗したら、いつでも帰ってきたら良い。
そう思えた。

梨華は幼稚園が始まったら、通常通り始業式に参加して、そのままクラスに戻る予定だ。

冬休み中、幼稚園の先生と何度も連絡を取り合って相談を重ねた。

梨華も、こっちで十分リフレッシュできただろうからきっと大丈夫。
今まで通り、お友達と過ごすことができるだろう。

ゆいちゃんとも……。

今まで、ゆいちゃんの事を悪く言ったりしない梨華。
親の私でも、泣けてくるほど優しくて繊細な梨華。
ずっと、そのままでいてほしい。
そのままの梨華が、ママは大好き。
梨華の事は、ママが守るからね。

自宅に戻る日、玄関で見送ってくれた両親。
「また、いつでもおいで」

その言葉に、グッと涙をこらえた。
笑顔でお別れをし、実家を後にした。

さぁ家に戻らなきゃ。

思い出す気持ち

実家からの帰り道、頭の中でぐるぐる考えた。
これから旦那とどう過ごしていけば良いのか、どんな顔して会えば良いのか。

もう、旦那に向けて笑顔が作れない気がする。
梨華の前で喧嘩が耐えなかったら……。
口をきかない毎日だったら……。

早くも私の実家に戻るシミュレーションをしてしまう。
そんな事を考えているうちに、家に着いてしまった。

電気はついていない。
まだ会社かな……。
それとも出ていったかな。

夕飯時だが、車内で寝てしまった梨華を抱きかかえてそのまま寝室へ運んだ。
そしてまた車に戻り、荷物を持って家に入った。

その時初めてリビングの電気をつけた。
ダイニングテーブルに、缶ビールとカップラーメンの容器が置いてあった。
ソファには、脱ぎ捨てたパジャマがあった。

それでも、よく見渡すとわりときれいな状態の部屋だなと思った。
きちんと片づけたりしていたんだろうか。
なんだか、心臓がキュッとなった。

ずっと1人で過ごしていた旦那を想像したら、今さらながら申し訳なく思えてきた。
部屋を片づけてソファでホッと一息ついていると、壁に飾られた写真が目に入った。
結婚式の時の写真、梨華が産まれた時の写真、初めての家族写真。
幸せな家庭を築いてると思っていた。

でも今は……。
なんともやるせない気持ちと、これからの不安な気持ちでどうしようもなかった。

その時だった。
『キイィーー』
旦那が帰ってきた。

急に心臓の音がバクバクなり出した。
ガチャっとドアがあき、久しぶりに旦那と顔を合わせた。

「あっ…おかえり…!帰ってきてたんだ。」
旦那が少しびっくりした様子で言った。

昔と変わらない優しい表情。
私、やっぱりこの人が好きだ。

ただいまとも言わずに、思わず涙があふれた。
「なに!どうした?」
旦那が慌てて私の方へ来る。

私は、旦那の胸に顔を埋めて静かに泣いた。
旦那は、私を強く抱きしめた。

「友美……ごめん。俺、ひどいことたくさん言ったよね。最低な父親だったよね。本当にごめんね。」
私は、うなずきながら泣いた。

この人の腕の中は本当に安心する。
思い出せてよかった。



その夜は、夫婦2人で長いこと話し合った。

しばらく抱き合って、私は安心感に包まれた。

その夜は、夫婦2人で長いこと話し合った。
私が旦那にされて嫌だったこと、離婚まで考えた事、梨華の状態。
全てを吐き出した。

けれど、旦那も同じ時期に仕事の人間関係で上手くいってなかった事を聞いた。
それも、上司とのトラブルで大変だったみたい。

ニューヨークでの出張が長引いていたのも、上司とのいざこざが原因らしい。
旦那も大変な思いをしていたんだな。

お互い自分の事に精一杯で、相手を思いやれなかった事。
大事な時に、夫婦の会話が少なかった事など、2人で反省した。

旦那は、すごく謝ってくれた。
自分の言動は行き過ぎだった、と。

でも、自分の事ばっかり考えていたのは私の方かもしれないな。

「友美と梨華が実家に帰って、もうこの家に戻ってこないんじゃないかと思ったらすごく怖くなった。自分の発言とか行動が走馬灯みたいに蘇ってきて、嫌悪感に襲われたんだよ。でも、自分から帰ってきてくれなんて勝手過ぎて言えないし、変にプライドが勝っちゃって……。」

旦那は今まで見たことがないくらい、申し訳なさそうにちぢこまって話した。
それがとても面白くて、私は笑ってしまった。

お互い少し離れたことで、結果的によい方向へ進めそうだ。
私は、まさか旦那の顔を見た瞬間『好き』という気持ちが蘇るなんて思いもしなかったけど。

でもこれが、私の本心なんだなと思う。
これから先、私が実家でいやされたように梨華に何かがあった時に、帰りたいと思う場所が『ここ』でなくては、と思った。

それは、旦那に対しても同じ事で。
家族が帰りたいと思う場所が、私のいる『ここ』になるようにしてあげなくちゃ、と久しぶりにゆっくり部屋を眺めながら思った。

そして旦那は、「コレ、飲もうよ!」とシャンパンを開けだした。
クリスマスとお正月のやり直しだって。

仲直りができて相当うれしいのか、旦那の浮かれたその様子を見て、また笑ってしまう。

「あと、これさ……クリスマスプレゼント。遅くなったけど。」
そう言ってニューヨークで買ったという老舗ブランドのネックレスをくれた。

最悪な夫婦仲での状態の出張だったのに、私のために選んでくれていたんだと思うと、旦那への愛しさでいっぱいになって泣けた。

「ありがとう。うれしい。」
旦那は優しくほほえむ。
この人の、この優しい笑顔がまた見れて本当によかった。

その夜、梨華にはちょっと遅いサンタクロースが来てくれた。

衝撃的な出来事

そして、今日から幼稚園が始まる。

私は、今までまるで何事もなかったかのように朝の準備を始める。
梨華にも、特に何も言わない。

「早くしなさーい」と、とにかくいつも通りに努めた。
「まま、まだようちえんいくじかんじゃないよ?まだ8じだよ?」

……さすが梨華。

もう時計は読めてるし、いつもと違う行動に鋭く気付く。

「だって、今日は始業式だもん。ほら、早くして。」
私はいたって普通にしているつもりで答えた。

そして、瞳ちゃんと花ちゃんと待ち合わせて幼稚園へ行く。
「わぁ~!梨華ちゃん久しぶり~!また仲良く遊んでねぇ。」

瞳ちゃんにそう言われ、梨華は恥ずかしそうに、こくんとうなずく。

そして、花ちゃんと仲良く手をつなぎながら幼稚園へ向かった。
なにやら会話をしている小さな2人がとても可愛かった。

「おはようございます~。」
「明けましておめでとうございます~。」
「今年もどうぞよろしくお願いします~。」
こんな挨拶が正門の所で飛び交っていた。

私は梨華に、とびっきりの明るい声と笑顔で言った。
「いってらっしゃい!」

梨華は、ちょっと戸惑っていた。
「みんなといっしょのきょうしつ?」

「そうだよ、梨華。前と同じように皆と一緒にお勉強するの。大丈夫?」
私は、できるだけ明るい声で聞いた。

「うん!わかった!いってきます!」
梨華は、そう言って教室の方へ走っていく。

すると、おばあちゃん先生がやってきて梨華の側へ行った。
「みんなおはよう~!」
そう言いながら、梨華に何か話しかけていた。

きっと今日は、さり気なく梨華のそばについてくれるはずだ。
ちょっと心配だけど、梨華と先生を信じよう。

「帰ろっか~。」
瞳ちゃんと帰ろうとしたその時だった。

「えーっ!!本当!?」
一部のお母さん達がザワザワっと騒ぎ出した。

「何だろう?」
私と瞳ちゃんが顔を合わせていると、私に気付いた梨華と同じクラスのお母さんが教えてくれた。

「工藤さん、幼稚園辞めて引っ越したんだって。上のお姉ちゃん達も、転校!」
「・・・・えっ!?」

私てきには、最近で1番の衝撃だった。
少し胸をなで下ろしている私は、嫌な人なのかしら。

「でもなんで・・・?」
「なんか、離婚らしいけど。」

これは本当の話しなのか、次のターゲットは桜子さん、と言わんばかりの噂話しなのかは分からない。

けれど私は、本当の事を本人の口から聞くことになる。
出会った頃の私たちからは、今の物語は想像できなかった。
とうとう、桜子さんとの関係に終止符を打つ時が来た。

次回は来週公開~【第14話・ 取り戻した幸せ。トラブルの元凶!ボスママがいなくなる?!
ライター O. 2児の母です



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