【ママ友小説】お受験は必要?~自分と同じ苦労をさせたくないという義母の気持ち

【幼稚園のママ友トラブル~ママ友カースト第2話】

友美は、旦那と娘と幸せな生活を送っていた。
姑に多少の嫌悪を覚えるも、我慢の出来る範囲ではあった。
そんな姑から、娘の幼稚園のお受験を薦められる。
友美は娘のためと思い、幼稚園のお受験をすることに決めた。
しかし、この決断が後のママ友トラブルに発展するなんて、この時は思いもしなかった……。




同じ苦労をさせたくない!義母が力説するお受験が必要な理由

「お受験するんだったら、お勉強始めなきゃねぇ!」

有名な私立幼稚園を受験すると決めてから、義母は大はりきり。
義母も、娘を合格させるのに必死なのだろう。
でも、協力的で助かった。

私には仲のいいママ友もいないし、幼稚園のお受験なんて何をするかサッパリ分からない。
梨華が2歳になったのもあり、学習教材などを始めた。
リトミックや、親子で出来る水泳教室、英会話教室にも通うつもりだ。
どれもこれも、全て義母の指示。

「……お義母さん。なんでこんなに幼稚園のお受験に詳しいんですか?お受験対策って、こんなに習い事させるべきなんでしょうか?」

「実はね、翔太もこの幼稚園に入れようと思っていたのよ。でも、うちはこんなに高い学校に入れる余裕はなかったし、諦めたの。でも、もしお金があったら……って頭の中でシミュレーションだけはたくさんしたわ」

義母は、苦笑いを浮かべながら話した。

そうか、だからこんなに梨華に幼稚園のお受験をさせようと思っていたのか。
義母は、申し訳なさそうに続けた。
「翔太もあの幼稚園に入れていたら、高校受験や大学受験で苦労しなくて済んだわ。良い大学を出させてやれなかったけど、幸い今は収入も良くてよかったわ……」

私は、この時少し怒りを覚えた。
自分の息子にしてやれなかったことを、孫に押しつけようとしているのかな?
梨華の親は私なんだから、幼稚園の事は私が決めたいのに……!

私が、頭の中で悶々と悩み出しそうな時、義母は強い口調で言った。

「梨華ちゃんは女の子でしょ。もし一般の大学まで出ても、すぐに結婚して家庭に入ってしまったら、苦労して大学受験したのが無駄になってしまうかもしれない。でも、この幼稚園に入ってしまえば大学まで保障されているから、大学受験で苦労することもないのよ!もしすぐに結婚なんてことになっても、受験っていう大変な事はこの一回で済むでしょ?!」

私は少し圧倒された。
義母は、梨華自身の事を考えてくれていた。
そしてそれは、私の負担を減らすという事でもある。子供の受験は、親も精神がすり減るのだろう。

「大学出た意味がなくなっても、学歴は無駄にはならないからね。いつか役に立つから。」

義母は、お茶を飲み落ち着いた。

「翔太の受験、大変だったんですか?」
私は、恐る恐る聞いた。

すると義母は、眉をしかめて言った。
「もー、大変大変。浪人こそしなかったけど……。毎日塾行って、補習行って。夜食も毎日作ってやって。翔太はイライラして、私に八つ当たりするしねぇ。私もイライラしないように神経をつかったわ。」

私は、義母の考えに怒りを覚えてしまったことを反省した。

義母は少し非常識な所があるけれど、幼稚園の事は私たちを思っての事だったのだ。
それからというもの、お受験対策のお勉強の相談は義母にするようになった。

お受験のための学習は子どもにはつらいだけ?

そして、お受験対策のお勉強の毎日が始まった。

学習教材は、言葉遊び・パズル・挨拶など2歳児用の内容だった。
絵本も、毎日何冊も読んだ。
リトミック・英会話・水泳教室は、週に1度なので、梨華も遊び感覚で楽しく通っていた。

ただ、梨華は時々呟いた。

「おんもいくー」
「こーえん」
「てれび」

梨華は、外に出たい。公園で遊びたい。もっとテレビが見たい。
当たり前だ。まだ2歳だもん。

でも、私は何の使命感からか、1日に決めたお勉強の内容が終わらなければテレビを見せたりすることはなかった。

梨華のイヤイヤ期も重なって、学習教材を見せるだけでイヤイヤ!と泣き叫ぶようになった。
「梨華?ほら!パズルやろう~!楽しいよー」
「いやー!」

「これは?ほら!りんごは何色かな?」
「いやぁー!ええぇーん!」

私は焦っていた。お勉強が全く進まない。
焦りでイライラしてしまう。

怒ってはだめ……!
そう思った時には、もう梨華に怒鳴っていた。

「なんで嫌なの!幼稚園受からなくてもいいの!?」
梨華は大声を出されて更に泣き叫ぶ。

私も怒鳴った自分が情けなくて、梨華を抱きしめながら謝った。

「ごめん、梨華。そんなこと言われても分からないよね。ママの勝手だよね。ごめん。」
梨華は泣き疲れて、私に抱かれながら眠った。

もっと、お外で遊びたいよね。もっとテレビ見たいよね。

私は、自分に問いかけた。
本当に、受験することがこの子にとって良い事なのだろうか?他の子達みたいに、外でのびのびと遊ばせた方が、梨華は嬉しいんじゃないか?



こんな調子ではお勉強どころではなくなってしまった。
でも、家の外でやる習い事には楽しんで行くから、しばらくそれで良しとするしかない。
家での学習教材は梨華の気が向いた時などに少しやり、絵本は毎晩寝かしつけの時に読んでやる程度にした。

テレビアニメも普通に見せたし、教育テレビも喜んで見ていた。
公園へ行って、その場にいた子供達と仲良く遊んだりもしていた。

お勉強に対する肩の力を抜いた事がよかったのかもしれない。梨華も、また活き活きとし始めた。
これぞ、健全な2歳児の姿だ。

私は、また梨華に申し訳なくなって胸がキュッとした……。
あんなに心配しなくても、月齢を追う毎に言葉は自然に増えていったし、色や数字も覚えていた。
それどころか、梨華は絵本を暗記しているのか、1言も間違えずに音読している。
簡単な足し算も出来ている。
数えられないくらいの歌も歌える。
私よりも発音の良い英語。

この子は天才だ!と思ったりしたのはさすがに親バカだったけれど、本当に勉強が出来る子だった。
そして、それを実感する出来事がのちにおこったのだ。

いざ、お受験!合格通知を手にすることができたが

幼稚園のプレ教室も始まり、もう少しでお受験本番という頃、プレ教室で、挨拶程度をするお母さん達と受験の話しをした。

「うち、お姉ちゃんもこの幼稚園通ってるんだけど、お受験なんてお名前が言えたら十分だった気がする」
「でも、筆記のテストもあるんですよね?」

「テストって言ったって、白はどれとかバナナはどれとかそんな程度よ!先生が、1対1で質問してくれて指指すだけだから」
「そうなんだ~」

お母さん達とのお受験話は盛り上がった。
よかった!もし入園出来たらママ友がたくさん出来そう。
みんないい人そうだし、仲良くなりたいなぁ。

私も、幼稚園でママ友を作るのが楽しみだったが、娘も幼稚園へ行くのが楽しみなようだ。

「あちたようちえんいく?おともだちいりゅ?」
「明日は幼稚園には行かないけど、お受験頑張ったら幼稚園行けるよ!」

「りか、おじゅちぇんがーばるー!」
まだまだつたない言葉使いの梨華。

この子が幼稚園を受験だなんて……。
感極まる思いと同じくらい、私の心は不安でいっぱいだった。
お受験なんて本当に出来るのだろうか。
先生と受け答えが出来るのだろうか。

もし幼稚園に落ちてしまったら、空きのある幼稚園へ入るしかない。

お受験の日が、刻一刻と迫ってきていた。

そしてお受験当日。
旦那も連れて、指定された日にちと時刻に幼稚園へ着いた。

これまで、口出しせずに私のやり方を見守ってくれていた旦那。
「大丈夫だから」

そう言って優しく微笑み、背中をぽんっと押してくれた。
うん、たくさん練習したから大丈夫だよね。
梨華を見ると、いつも通り。
「ぱぱもよーちえんきたのー?」と嬉しそう。

「一ノ瀬梨華ちゃん。お入り下さい。」
先生に呼ばれ、教室に入った。

「お名前を教えて下さい。」
「いちのせりかです。」

「たべものは何が好きですか?」
「みかんです」

私たち両親も色々質問をされ、面接はスムーズに終わった。

そして、私たちは廊下に出されてガラス張りの壁越しに梨華を見守った。
梨華はこれから試験を受ける。

先生がボードを見せて、梨華が書いてあるものの名前を答える。
おもちゃはいくつあるのか数える。
簡単なパズルを仕上げる。
手遊び歌を先生と歌う。
梨華は、全て上手に出来ていた。先生が質問する以上に答えて、ずっとおしゃべりしていた。

「ありがとうございました。」

幼稚園を出て、梨華を褒め讃えた。

「梨華!上手に出来たねぇ!凄かったよ~!」
手応えは充分に感じた。

「今日は梨華の好きなもの食べようね!」
「りか、アイスたべたーい!」

1週間後、幼稚園の合格通知が届いた。

キラキラして見えたこの合格通知が、こんなに憎らしいものに見える日が来るなんて。
これさえ届かなければ……!
あんなに嬉しかった合格通知を、私は破り捨てることになる。
幼稚園なんてお受験しなければ……。
受からなければよかったのに!
私は、精神が限界で八つ当たりするものを探すしかなかった。

次回は来週公開【第3話・新しい生活~入園式で園児代表を務めた我が子を誇らしいと思う友美だったが】
ライター O. 2児の母です



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