
【幼稚園のママ友トラブル~ママ友カースト第3話】
義母の勧めで、娘の梨華を有名な私立幼稚園へお受験させることにした友美。
お受験が娘にとって必要なのか悩みもしたが、無事に幼稚園への合格通知が届いた。
友美も梨華も、幼稚園が楽しみだった。
しかし、この合格通知が友美の人生を壊していくのだった……。
入園準備も整いだしたある日、幼稚園から呼び出しが
「りかねぇ、おともだちとブランコがしたいの!あとね、すべりだいもするの~。」
りかは、幼稚園が楽しみなようだ。
入園手続きも制服採寸も済ませ、幼稚園への準備は整いだした。入園までの生活も残りあと数カ月。
もうこの子は、私の知らない世界を作り始めるんだ……。
寂しいけど、うれしい。子供の成長って、こんな感情の積み重ねなんだろう。
私は、梨華とずっと一緒にいられる残りの期間を大切に過ごそうと決めた。
入学通知を受けとってから2週間たったある日のこと。幼稚園から1本の電話があった。
「ご都合のよろしいときに園にお越しいただきたいのですが……。お話ししたいことがありまして。」
え、何だろう?なぜわざわざ幼稚園まで行かされるの?悪い話しだったらどうしよう。
「ねぇ、パパ。今日幼稚園から電話があってね。」
私は旦那に電話の内容を話した。
「何だろうなぁ。でも、入園取り消しとかそんな話しじゃないだろう。そんな事になったら納得できないよ!制服採寸で何か漏れがあったんじゃないのか?」
「そんな事だといいんだけど……。」
「友美は考えすぎだよ。でも、もし何かあったら、すぐに電話してね。」
「うん、ありがとう。」
私は、電話をもらった次の日に梨華を連れて幼稚園へ向かった。
「こんにちはー!わざわざお越しいただきまして、申し訳ございませんでした。教室にご案内しますね。」
先生の感じだと悪い話しではなさそうだけど、一体なんだろう?気になって、電話をもらった時から何も手につかなかった。
「お話というのはですね。梨華ちゃんに入園式の際に新しい園児代表として、舞台に上がっていただきたいんです。」
「えっ!梨華が?・・・どうしてですか?」
「梨華ちゃん、入園試験の問題でひとつも間違いがなかったんですよ。パズルもすらすらと完璧。手遊び歌なんて、出題した歌以外も先生に歌ってくれて。一番はきはきしていておしゃべりが上手だし、元気が良いんだけどお行儀もとっても良くて。園児代表として最適なんじゃないかと、園長先生と話していたんですよ。」
私は、大きな安堵と喜びで言葉が出なかった。まさか梨華が園児代表だなんて。
そこへ、遅れて園長先生が教室へ入ってきた。
「こんにちは。遅れてすみません。一ノ瀬さん、この度はわざわざお越しいただきまして申し訳ございませんでした。梨華ちゃん、こんにちは。」
「せんせー、こんにちは!」
「お~!元気が良いねぇ。おりこうさんだねぇ。一ノ瀬さん、お話しはお聞きになられましたか?」
「……はい。まさかウチの子が代表だなんて。本当に大丈夫でしょうか?」
「梨華ちゃんが最適だと、判断いたしました。試験の様子を見て、梨華ちゃんならできると思いますよ。」
梨華は試験中、ずっとおしゃべりしていたから、むしろ少し落ちついてほしいと思っていた位なのに。
「お母様、いかがでしょうか?」
「……分かりました。ぜひ、よろしくお願いいたします。」
せっかく選んでもらったんだし、私は引き受けることにした。
でも私が引き受けても、実際は梨華の仕事だ。本当にできるのだろうか。
教室を出てそのまま、私たちは体育館へと案内された。制服採寸もした会場だ。
園児用の体育館でも、私立幼稚園だけあって広い。
園長先生と何度か予行練習をして、幼稚園を後にした。
「梨華~。お返事上手だったよ!」
途中でふざけたり、走り回ったりしていたけど大丈夫かな。入園式でちゃんとできなかったらどうしよう。
私の心の中は、先生に梨華を褒められた喜びよりも入園式当日への不安の方が大きかった。
「パパ!あのね……。」
いてもたってもいられなくて、旦那に電話をした。
「梨華すごいじゃないか!できるだけ早く帰るよ!」
義母にも連絡をして、その夜はみんなでお祝いをした。でも私は、お祝い気分ではなかった。今から緊張してしまって、気分が落ちつかなかった。
それから入園までの間、幼稚園に何度か練習をしに行った。
入園式の前日の日、最終確認をしに幼稚園に行った。
もう体育館は入園式仕様になっていて、私の胸は高まった。まだ練習なのに、感極まって危うく涙が出そうになった。
梨華は、華やかな体育館を見て興奮している。
「まま~!あかとしろ、いっぱいあるよー!しましまだねぇ!」
園長先生や、他の先生方と段取りを確認した。
「ではお母様、明日お待ちしております。何かあったら、私共が対処いたしますからご安心くださいね。梨華ちゃん!明日頑張ってね!先生、幼稚園で待ってるね~」
「はーい!せんせぇ、さよーならっ!ばいばーい」
梨華は緊張なんてしないんだろうか。私はもう気が気でない。
梨華よりも緊張する友美!入園式当日は誇らしさでいっぱい
そして、入園式当日。
「パパ……。おなか痛い。入園式休む~。」
「ほらほら!ママがしっかりして!」
旦那は笑って励ましてくれる。私は、もう自分の身支度どころではなかった。髪の毛は気合を入れてアレンジしようと思ったのに、結局無難な髪形になった。緊張し過ぎて、胃がキリキリするのだ。
「まま~。りか、かわいい?」
私に何度も聞いてくる。制服が気に入ったようだ。それに、梨華の髪の毛だけはかわいくしようと凝ったアレンジをしてあげたからか、自分で姿見を見てはくるくる回っている。
「梨華、かわいいねぇ~。お姉さんみたいだねぇ。今から幼稚園行くけど、昨日練習したみたいに、ちゃんとお返事できるかな?」
「はああぁぁぁーい!」
本番並みの音量で返事をしてくれた。
本人も、気合は十分みたいだ。
体育館に着くと、いつもより中が広く見えた。天井も高く見える。壇上は目の前なのに、遠く見える。
保護者の数も、園児の数も多い。
私たちは、園児代表として列の一番前の真ん中に座っていた。
先生がこそっと話しかけに来てくれた。
「一ノ瀬さん、今日はよろしくお願いいたします!梨華ちゃん、頑張ってね。」
先生は、私たちにあいさつをしたあと、隣りのお母さんにも話しかけていた。
「工藤様、たびたびすみません……。」
何かを話しているようだったけど、それ以上の事は気にする事もなかった。
ただ、梨華が無事に努めを果たすことを祈った。
入園式で出会ったママ友は保護者代表!園児代表の我が子を褒めてくれたが……?
そして、入園式が始まった。
園児達の名前が、1人1人呼ばれていく。
大きな声でお返事できる子、お返事できない子、ふざけている子などさまざまだ。
梨華は、ここでは普通に返事ができた。
『次に、保護者代表 工藤桜子様。よろしくお願い致します。』
「はい。」
そう言って、隣りに座っているお母さんが立ち上がった。保護者代表だったんだ。
「先ほどご紹介いただきました……。」
もうすぐ梨華の出番だ。もう誰の声も入ってこない。
「梨華、もうすぐ呼ばれるからね。お返事してね。」
「うん、分かった。」
そしてついに……!
『園児代表、一ノ瀬梨華ちゃん。壇上にお願いします。』
『はぁい!』
梨華は、大きな声で返事をし、壇上に上がっていった。
梨華が、立派でたくましく見えて、私は涙があふれ出た。ママ、ママと私から離れることのできなかった梨華が、私から離れて1人で歩いて行く。この感情を、何て表現したら良いのだろう。
胸が締め付けられて、とても誇らしく、寂しく、うれしく……。
私は、涙がいっぱいの視界で、一生懸命梨華を見つめるのに精一杯だった。
『入園、おめでとうございます。幼稚園生活を、元気に楽しんで送ってください。おめでとう。』
「ありがとーございますっ!」
梨華は、花束を受け取り私たちの元に帰ってきた。梨華の顔つきが変わっている。一つ、大人になったんだね。
「梨華~!上手だったよ~!すごい~!!」
私は、涙を拭いながら言った。旦那は、目と鼻を真っ赤にして黙ってビデオカメラをしまっていた。頬には、涙の跡がついていた。
「とても上手だったよ~」
隣のお母さんが、梨華に話しかけてくれた。
保護者代表のお母さんだ。確か、工藤さんって言ったよね。
「ありがとうございます」
私は、慌ててお礼を言った。
「工藤と申します。これから、よろしくね。」
「はい!あ、一ノ瀬です。ぜひ、これからよろしくお願いします!」
私たちは、ほほえみ合った。
これから、新しい生活が始まる!
私は、期待と希望で胸がいっぱいだった。
この時までは……。
人生を狂わす出来事は、もうすでにおこっていたのだから。
次回は来週公開【第4話・初めてのママ友~素敵なママ友とそのグループのママたちと楽しい毎日を送っていた友美だったが】
ライター O. 2児の母です