
【幼稚園のママ友トラブル~ママ友カースト第9話】
友美は、幼稚園で流れている自分への良くない噂にも負けずに過ごしていた。
そんな中、ママ友の佐藤さんから桜子さんが作るママ友カーストの実態を聞いた。
自分は、娘の梨華が優秀な生徒だから桜子さんのグループに入っていた事を知る。
そして、梨華が友達に傷つけられたと聞き、幼稚園へ急いだ。
「一ノ瀬さん・・・!どうかされましたか?」
「こんばんは、突然すみません。ちょっと相談があるのですが。」
私は主任の先生を呼び出してもらった。
もうすぐ還暦を迎えるというおばあちゃん先生。いつも梨華とお世話になっていて、顔を見るなり私は少し安堵する。
私は、一部始終を説明した。
何より事態が梨華の耳に入ってしまい、本人も傷ついてしまった事を、若干声を荒げながら、でも淡々と話した。
「……そうですか。こちらとしても、対応が遅くなってしまい申し訳ございませんでした。」
「いえ、先生方は何も……。」
先生は、ふぅ…と一呼吸置いて、話してくれた。
「工藤さん、以前もこんなことがあってね。話しはだいたい分かります。私も、工藤さんに直接問いかけたい気持ちは山々なんですけど、証拠というかそういうものがないから……。」
先生は、とても難しそうな顔をしていた。
「梨華ちゃんとても優しい子ですし、ご家庭で自分を否定されたという経験がないのでしょう。初めて意地悪な事を言われて、相当ショックだったんでしょうね。」
眉間にしわを寄せていた先生だったが、私の顔を見ると優しく微笑んで言った。
「梨華ちゃんが傷ついて、お母様もおつらいですね。私も、できる限りのことはしますよ。」
先生に打ち明けた事で、気持ちは少しだけ軽くなった気がした。
お礼を言って、家へ向かった。
保護者会を開いて、噂話について弁解するという話しにもなったが、さらに大事にはしたくないので、断った。
闘うと言っても、私に出できる事なんてたかが知れている。
こうやって先生に相談するか、嵐が過ぎ去るのをじっと待つしかない。
無力な母親だ。
気持ちは多少軽くはなったが、でもやっぱり怒りと情けなさはなくならない。
結局解決出できずじまいで、梨華への罪悪感も抱いたまま家へ着いた。
「ただいま」
家へ着くと、旦那が一人でリビングにいた。
「梨華は?もう寝ちゃったの?」
「ご飯食べたら寝ちゃったから、そのまま布団に置いちゃったよ。」
旦那は、少し疲れた様子で答えた。
「ごめんね、色々とお願いしちゃって」
「大丈夫だよ。先生にはちゃんと相談できたの?」
私は、先生と話した内容を伝えた。
すると、少しびっくりする返事が来た。
「まぁ、梨華も喧嘩慣れしてないっていうかね。友美が甘やかせすぎた所もあるよね。」
「なにそれ……。」
「だって、ちょっとお友達に強く言われただけだろ?それくらいであんなに落ち込んで、お前も幼稚園に怒鳴り込みに行って。モンスターペアレンツだと思われちゃうよ?」
旦那は、鼻で笑うかのように言った。
私は、また怒りが込み上げた。
さっきまでの怒りとはまた違う、体が震える程の怒りだった。
旦那は、何があっても私を否定しないと思っていた。味方だと思っていた。
「私が、毎日幼稚園でどれだけつらい思いをしてるか知らないくせに!梨華だって、優しい子だから、余計に傷つくの!一生懸命お遊戯の練習してるのに!」
「お前は、瞳ちゃんがいるから大丈夫とか言ってたじゃん。それにもう大人なんだしさ、くだらない揉めごとするなよ。面倒くさいなぁ。こっちは、会社でもっと大きなストレスがあるんだよ。ママ友同士の揉めごとで騒がないでくれよ。」
旦那がこう言い放った事で、私は一気に旦那に幻滅してしまった。
怒りも一気に引いてしまった。
こんな時、パートナーって慰めてくれるものじゃないの?
口先だけでも優しい言葉をかけてくれてもいいんじゃないの?
娘の事は可哀想じゃないの?
こんな突き放されるように言われたら、そりゃ幻滅する。
「もういい。何も言わない。」
私はそう言い捨てて、梨華のいる寝室に行き、布団に突っ伏して泣いた。
悔しい。悲しい。せめて旦那には、優しくしてほしかった。
声を押し殺して泣いた。
こんなに泣いたのはいつぶりだろう。
最近の幼稚園でのストレスもあってか、涙が止まらなかった。
1時間くらいは経ったのだろう。
ふ、と目を明けて、寝ていた事に気が付いた。
梨華の寝顔を見ながら、ひたいをなでる。
梨華が感じたであろう気持ちを想像すると、また心臓がぎゅうっとなる。
私が守らなきゃ。
そう強く誓うと、瞳ちゃんに電話をして愚痴をぶちまけた。
お遊戯会まであと一週間。役員会が開かれた。
「皆さん、本日もよろしくお願い致します。まず、皆さんへお話しがございます。」
主任の先生が教室に入ってくるなり、怖い表情で話し始める。
「あまり大きな声で言いたくはありませんが、ありもしない他人様の噂話をしないて頂きたく思います。私共の耳にも、園児達の耳にも入ってきて、大変風紀が乱れる行為でございます。お母様方には、子供達にとってかけがえのない大切な存在です。背中を見られていますよ。いつどんな時も、子供達の大好きなお母さんでいてくださいね。」
こんな姿の先生は初めて見た。
今にも怒鳴り散らしそうな表情、有無を言わせないような声量と声のトーン。
いつも若干ざわついている教室も、シーンとしてしまった。
そして、先生は続ける。
「さぁ、もうすぐお遊戯会です。赤ずきんちゃん役の一ノ瀬梨華ちゃんは、私共が厳正な判断をして、決断して主演になってもらった役者さんです。みなさん、サポートをよろしくお願い致しますね~!」
言葉の圧を感じた。
それと同時に、先生からのたっぷりの愛情も伝わって、思わず涙が落ちそうだった。
瞳ちゃんが背中をさすってくれたので、余計に泣いてしまいそうだった。
すると役員会での作業中、いつも無視したり陰口を言っていた人たちが、普通に会話してくれるようになった。
さすがに謝られはしなかったが、近くに行っても避けられずに話してくれた事にびっくりした。
やはり、おばあちゃん先生の言葉は偉大だ。
おそらく、『子供達の大好きなお母さんでいて』という言葉が響いたのだろう。
人生の先輩であり、母親としても先輩の先生の言葉は心に重くのしかかる。
誰だって、子供に誇れる母親でいたいものだ。
それからというもの、幼稚園の送り迎えの時に普通に接してくれるお母さんが増えた。
私は、当たり前のように挨拶をしてくれる事に違和感と嫌悪感を抱いたが、やっぱり嬉しかった。
でも、桜子さんの周りだけは違う。
桜子さんも、先生が役員会で言っていたことを聞いただろうな。
あなたが変わってくれたら、それで全てが終わるのに。
不安要素は残りながらも、少しだけ平和な日々が続いた。
梨華も、毎日楽しく過ごしているようだった。
そしてお遊戯会当日の朝。
「梨華!ママ、近くで見てるから頑張ってね!何て言うんだっけ?」
「これからおばあちゃんのいえにいくの~!!」
「すごーい!大きな声だね~!」
梨華は、楽しみで仕方がない様子。
よかった、あれから何もないみたい。
旦那も、はりきった様子で梨華に言った。
「パパも後でばぁばと行くからね!」
「うん!ぱぱー、ちゃんとみててねぇ」
私は、旦那とは必要最低限しか会話していない。
あっちはご機嫌取りのつもりか、あれこれ話しかけてくるけれど、私は基本的に二つ返事だ。
旦那も、まだヘソを曲げているんだな~くらいにしか思っていないだろう。
でも、私は心底旦那に幻滅している。
この先、前のようにまた旦那を好きになれるだろうか。
私は、旦那の顔をチラッと見て言った。
「じゃあ、先に行くから。梨華、パパに行ってきますして」
「ぱぱー!いってきまーす!」
家を出て少し歩くと、いつもの待ち合わせ場所に瞳ちゃんと花ちゃんがいた。
「おはよ~!お遊戯会楽しみだね~」
どうか無事に終わりますように……。
私は、心の中で祈っていた。
『これから、赤ずきんちゃんのお遊戯を始めます』
梨華は、立派に主役をやり切った。
この子は、本当に大舞台に強い子だなぁ。
本番にも強いし、子役でもやれるんじゃないかしら。なんて親ばかモードになってしまうほど、感心した。
すごく楽しそうにお遊戯していて、正直ホッとした。
梨華の中でも、何事もなかったんだな。
本当、先生に感謝しなくちゃ。
舞台から子供達が全員はけて、係の役員達が子供達の着替えやら舞台のセットやらを、大急ぎでやっていた。
私も、次に合唱する子供達の着替えを手伝っている時だった。
「ままぁー!!!」
泣きじゃくる梨華が、私に体当たりしてきた。
「梨華!?どうしたの!?転んだの?」
尋常じゃない泣き方に、私は動揺した。
「さっき、廊下で工藤さんが・・・!」
一部始終を見ていたお母さんが、私に事情を説明してくれた。
桜子さんは、梨華に面と向かってこう言い放ったらしい。
『梨華ちゃん、赤ずきんちゃん頑張ってやったの?ゆいの方が絶対上手にできたのに~。おばさん、梨華ちゃんが何言ってるか全然分からなかったわ。下手くそだなぁと思ったわよ。』
チラッと廊下を見ると、桜子さんがあざ笑うかのような表情でこちらを見ながら消えていった。
梨華は、泣きじゃくったまま私にしがみついて離れない。
きっと私は、桜子さんが目の前にいたら殴り飛ばしていただろう。
本気でそう思う。
でも私は、桜子さんと闘うことができなかった。
お遊戯会の翌週から、梨華は特別教室へ通うことになった。
次回は来週公開~【第10話・娘からのSOS! 傷ついた娘を心配する友美は夫にも失望する】
ライター O. 2児の母です