【ママ友小説】服まで真似する困ったママ友

~私の家の隣に引っ越してきたのは、幼馴染のミキだった。
昔から私の後をついてきて私の真似ばかりしてた泣き虫ミキ。結婚してから会っていなかったのに隣に引っ越してくるなんて。

しかも私の娘と同い年の娘がいて同じ幼稚園に入れることになった。ミキの変わらない性格に私はうんざりする。
でも幼馴染を突き放せなくて悩んでしまう。~




結婚をきっかけに地元から離れた土地に引っ越して5年。娘のカリンも3歳になり春からは幼稚園に通うことになった。
ある日曜日の朝、隣の家に誰か引っ越してきた。
どんな人か気になったけど、その日は家族で出かけることになっていたため日中は家を空けていて、隣の人と会うことはできなかった。

その日の夜、食事の準備をしているとインターホンがなった。
カリンが
「はーい」
と言って玄関に行くと、
「あの、夜分に失礼します。今日隣に引っ越してきた者です。こんな時間に失礼かと思ったのですが、ご挨拶に伺いました。」
と男性の声が聞こえた。

「ママー。お客さんだよ。」
とカリンが私を呼びに来たので、私はカリンを抱っこしながら玄関へ向かった。

「こんばんは。」
と夫婦と娘さんの3人で頭を下げて挨拶してくれたので、私も慌てて
「こんばんは。初めまして。宜しくお願いします。」
と挨拶をした。すると、
「初めましてじゃないんですよ。」
と奥さんが言った。

「え・・・?」
と私が顔を上げるとをすると、
「ふふ。わからない?私、ミキよ。」
と彼女は満面の笑みで言った。

「ミキ?・・・え?ほんとにミキなの?」
と私が目を丸くして驚いていると、
「ビックリした?メグちゃんと会うのいつぶりだろ?会えてほんと嬉しい!ねぇ、メグちゃん私ね・・・」
とミキがマシンガンのようにしゃべりだしたその時、ミキの旦那さんがミキの肩をポンと叩き、
「ミキ、もう遅いんだからご迷惑だろ。また今度にしたらどうだ?」
と止めた。

するとミキは、
「そうだよね。メグちゃんごめんね。また今度ゆっくり話そうね。じゃあ、またね。」
と言って帰っていった。

 

ミキ達が帰ると、
「ママ。あのおばちゃんお友達なの?」
とニコニコしながら聞いてきた。
私が
「そうだよ。ママがカリンくらいの頃からかな・・・。子供の頃からずっと仲良しのお友達なのよ。」
と言うと、
「カリンと同じ3歳?ママすごーい。」
と嬉しそうに言った。

旦那が
「そういえばそんな話聞いたことあるな。そんなに久しぶりなのか?」
と聞くので、
「うん。引っ越してから連絡する機会がなくて。でもまさかお隣さんになるなんてビックリよ。」
と笑いながら言った。

でも……実は少し不安だった。
旦那にはあんな風に言ったけど、本当はあえて連絡取らないようにしてたのよね…と思いながら、昔のことを思い出していた。

私とミキはいわゆる幼馴染で、小さい頃から家族ぐるみの付き合いをしてた。
親同士が仲が良かったから、よくみんな一緒に出掛けたりしたし、ミキと常に一緒に遊んでいた。それは大きくなってからも変わらず、小・中・高とずっと続いていた。

しかし、ミキにはちょっと困った所があってよくケンカをしたし、周りともよくもめていた。ミキの困った所。それは、人の真似をすること。

最初は些細なことを真似してくる。持ち物とかから始まり、段々と色々な物を真似してきて、そのうち行動までも真似してくる。
お揃いの物を持つのが嬉しかった時もあったけど、大きくなってからも続き、行動まで真似するようになってきた頃、私は正直ミキのことが段々煩わしくなってきていた。
それもあって結婚して引っ越してからはミキと距離を置くようになっていた。

次の日、ミキが娘を連れて訪ねてきた。ミキの娘の名前は『マリン』。カリンと同じ3歳。カリンはマリンちゃんと一緒に遊び始めた。

私は、
「ミキ、紅茶でも飲む?」
と言ってキッチンに向かった。すると、ミキが
「ほんと久しぶりよね。メグちゃんが引っ越してから連絡ないから寂しかったんだよ。」
と言いながらキッチンに来た。

「そうね。ごめんね。なかなか連絡できなくて。引っ越してきてから何だかバタバタしちゃって。そうしてるうちにカリンが生まれてさらにバタバタしちゃって。でもまさかミキがお隣さんになるなんてビックリしたわ。」
と紅茶をテーブルに運びミキを見ると、ミキはキッチンやリビングを見まわしていた。

「ミキ?こっち座って。久しぶりだしゆっくり話しましょうよ。」
と私が呼ぶと、
「うん。それにしても子供の頃から変わってないね。相変わらずセンスいいし綺麗にしてるよね。すごく素敵なリビング。」
と笑顔でミキが答えた。

「そんなことないわよ。あまり物がないから綺麗に見えるだけよ。」
と言うと、
「ここに置いてある雑貨とかどこで買ってるの?」
とミキが聞いてきた。「え?いや、その辺のお店で安いのをたまに買うだけよ。」
と答えた。



すると、
「引っ越してきたばかりで色々買いそろえたいから今度メグちゃんが行ってるお店教えてね。」
とミキが笑顔で言った。
「そうね。まだ引っ越してきたばかりだしね。わたかった。今度教えるよ。」
と私が言うとミキは嬉しそうにうなずいた。

それから昔話をしたり世間話をしたりしていると、ミキが
「そういえばカリンちゃんだっけ?マリンと同じ3歳だから春から幼稚園?」
と言った。
「そうよ。ここから歩いて10分くらいのところにある幼稚園に入れるの。」
と私が言うと、
「マリンもそこに通うのよ。嬉しい!メグちゃんと一緒に行けるなんて心強いわ。」
とミキは目を輝かせながら言った。

「マリンちゃんも同じ幼稚園なのね。カリンもきっと喜ぶわ。」
と私が言うと、ミキは
「幼馴染の子供同士も幼馴染になるってなんか素敵じゃない?私たちが家族ぐるみで付き合ってたように、これから家族みんなで仲良くしようね!」
と嬉しそうに言った。そして、
「あ、入園の準備もうした?まだだったら一緒にしない?」
とミキが誘ってきた。

「そうね。うちもまだだから今度一緒にお買い物行きましょ。」
と話していると、カリンとマリンちゃんが手をつないで走って来て、
「ママ、カリンとマリンちゃんすごく仲良しなんだよ。ママ達と一緒だね。」
と嬉しそうにカリンが言った。

なんだかその光景がすごく微笑ましくて、過去にこだわってミキのことちょっと警戒していた自分が恥ずかしくなった。

その数日後、約束通り幼稚園の入園準備のためにカリンを連れてミキとマリンちゃんと一緒に買い物に出かけた。

お弁当グッズや洋服など、カリンにどれがいいか聞きながら選ぶのがすごく楽しかった。マリンちゃんもミキと一緒に買い物していたんだけど、ふとカゴの中を見ると全部カリンが選んだ物と同じだった。
「あれ?マリンちゃんもこれ好きなの?」
と聞くと、
「そうなの。カリンちゃんと好みが似てるみたい。」
とミキが答えた。

同じ物を買っていると知ったカリンとマリンちゃんは
「わー。お揃いだね。」
と喜んでいた。私はまたミキのことを疑ってしまっていた。
『また真似される』という気持ちが心のどこかにあった。子供が好きなものを選んで買ってるはずなのに。
私はもうミキのことを疑うのをやめようと決めた。あれは昔のことなんだから、と。

それから数ヶ月後、桜が満開を迎えた暖かい日にカリンとマリンちゃんは入園式を迎えた。
色違いの服を着て、お揃いのカバンを持って無邪気に笑う2人はとても可愛かった。

入園してから私とカリンは、毎日ミキとマリンちゃんと一緒に幼稚園に通った。
毎朝家の前で待ち合わせをして一緒に登園する。
そしてお迎えもミキと行って4人で帰ってくる。
子供の頃に戻ったような気がして何だかすごく懐かしい感じがした。

それからさらに数ヶ月経ち、子供達にもたくさんのお友達ができ、私もママ友ができた。
ミキとはもちろんよく過ごすけど、ママ友との約束も増えてミキとの時間が少しずつ減っていた。

そんなある日、
「カリンちゃんママ~。」
と呼ばれ振り向くと、カリンと同じクラスのユズちゃんママが手を振っていた。
私が
「おはよう」
と挨拶すると
「今度は間違えなかった」
とユズちゃんママが呟いた。

「え?」
と私が聞くと、
「あ、ごめんね。さっき同じようにカリンちゃんママを呼んだんだけど、なかなか振り向いてくれないから近くに行って呼び止めたの。それがね、振り向いたのはミキちゃんママだったの!もうビックリしちゃって。結構大きな声で叫んじゃってたからすごく恥ずかしかったわ。」
と笑いながらユズちゃんママが言った。

「似てる?ミキちゃんママと?」
と私が首をかしげると、
「そうよ。服もバッグ同じ。しかも髪型も同じだったの。ほんと2人って仲良しよね。」
とユズちゃんママが言った。

『何それ・・・?』
それが私が最初に思ったことだった。
『ここ数日会ってなくて今朝も時間合わなくて一緒に登園できなかったけど。服は一緒に買いに行ったことあるからまだわかるけど、髪型も一緒ってどうして?』
と私は混乱していた。その後もユズちゃんママが何か話していたけど耳に入ってこなかった。

その時、
「メグちゃん!」
と呼ばれ我に返った。気が付くと目の前にミキがいた。
「ユズちゃんママ。メグちゃんはミキと約束があるんだからね。」
とユズちゃんママに言っていた。

「幼馴染同士で同じ幼稚園に通うって何か素敵よね。じゃ、またね。」
と言ってユズちゃんママは帰って行った。

「ミキ・・・?その髪型どうしたの?」
と私が恐る恐る聞くと、
「あ、これ?昨日美容院行ってきたの。メグちゃんが行ってるって言ってた美容院。そこでメグちゃんみたいな素敵な髪型にしてくださいってお願いしたんだよ。」
とミキが笑顔で答えた。

「ミキの髪長くて綺麗だったのにバッサリ切るなんてもったいないよ。」
と私が言うと、
「そんなことないよ。枝毛とか結構あったし、長いの飽きてきてたし。メグちゃんみたいな可愛い髪型にしてみたかったんだ。」
とミキが私の手を握って嬉しそうに言った。

「ありがとう、ミキ。」
と言ってはみたけど私はちょっと怖くなっていた。
『昔と何も変わってない・・・。』
そう感じた。

学生の頃も同じことをしていたから。昔ロングヘアーだったのは私で、ミキもロングにしたいと言って伸ばしていた。背格好はもともと似ていたから、ミキの髪が伸びたころ友達がよく私とミキを間違えていた。その時と同じことが起きているということが怖かった。

学生の頃、服・髪型・化粧品・化粧の仕方・遊びに行く所や買い物する所などミキはすべて私と同じでなければ気が済まなかった。
それどころか好きな人まで同じにするということもあってその頃すごく悩んでいた。でも結婚して引っ越してから疎遠になったからそのことも忘れていたのに……。

今またその時と同じことが起こっている。それがこれからもずっと続くのかと思ったらちょっと怖くなった。
でもカリンもマリンちゃんもすごく仲良し。それに、ミキは基本的にはすごく優しくていい子。真似をするところだけを除けば大事な幼馴染。
『ミキに真似をやめるようにハッキリ言うべきなのかな?でも私はミキのこと突き放せない・・・。どうしたらいいんだろう?』
そんなことを考えていると、
「メグちゃん大丈夫?気分でも悪いの?」
とミキが私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫。なんでもないよ。」
と私は答えた。すると、
「ほんと?じゃあさ、今日これから買い物行かない?」
とミキが笑顔で言った。
「いいよ。」
と私は答えていた。

さっきまでハッキリ言うべきか悩んでいたくせに。ミキの笑顔を見るとつい許してしまう自分がいる。
「昔から変わらないのは私も同じね。」
と笑いながら呟いた。
「え?何か言った?」
とミキが振り向いた。
「ううん。何でもない。」
と私が言うと、ミキはちょっと不思議そうな顔をした。

それから……相変わらず真似っこのミキとの友情は続いている。ちょっと戸惑うこともあるし悩むことも多いけど、幼馴染の腐れ縁ってこういうことなのかなって思う私だった。

ライター:ユーア
息子達と娘、3人の子供がいます。



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