【育児小説】絵本と朝日と夕日と。第5話〜マタニティーライフ

〜絵本と朝日と夕日と。第5話〜

お友達に物を投げたり、戦いごっこに興味が出てきた3歳のハル。姉妹で育ってきた私には理解し難い男の子の性質に戸惑うあまり、児童館で人目もはばからず怒鳴り声をあげてしまい……。どうやってハルと向き合えばいいのか日々悩む私は、期待と希望に満ちていたマタニティーライフに思いをはせるのだった。



怒ることと叱ることは全く別のこと

「やっつけてやるぅー!」

よく一緒に遊ぶことの多いお友達のコウくんとハルを児童館で遊ばせていたら、同じおもちゃを取り合って、突然ハルがそんなことを口走った。
そして、そのおもちゃを奪われた悔しさから、他のおもちゃを手に取ってコウくんに向かって投げつけた。
幸いコウくんには当たらなかったものの、今までお友達に対して物を投げるなんてことがなかったから、私はびっくりしながら慌ててコウくんとコウくんのママに謝った。

ハルにも謝らせようと、
「ハル!
人に向かって物投げたらダメでしょ!
コウくんに謝りなさい!」
と、ハルがやったことへの怒りと信じられない気持ちとが入り混じって、他にも何組か親子がいる中で、大きな声で怒ってしまった。

でもこういう時、親がギャンギャンと怒ってしまってはいけないのだろう。
ハルは私が怒ると、素直になるどころか余計に反発し、かたくなに謝ろうとはしなかった。
すぐ声をあらげるのではなく、ハルと同じ目線になって諭すように語りかけた方が、多分良かったのだと思う。

『今のはやっていいことかな?
もし当たってたらコウくん痛いよね。
おもちゃも床に落ちちゃって痛いって言ってるよ。
今は当たらなかったから良かったけど、急におもちゃが飛んできてコウくんビックリしちゃったと思うの。
だからゴメンナサイしよう。
おもちゃ投げてゴメンネって。
ママ、一緒に言ってあげるから』

その場が丸く収まった後になればそんなふうに考えられるのに、衝動的に怒っていたのでは、ハルが急にコウくんに物を投げつけたのと同じことになってしまう。
怒るのではなく、叱る、というのは、本当に難しい。

お友達のママからのフォローに救われる

頑として謝らないハルにイライラすると同時に、コウくんとコウくんのママに申し訳ない気持ちと、人前で自分の子供に怒鳴ってしまった恥ずかしさで、私はその場にいるのが気まずくなってしまった。
でもコウくんのママは、
「いいよいいよ、うちなんてお兄ちゃんいるからこんなの日常茶飯事だよー。
それだけコウと遊ぶのに慣れてきたってことだよね」
とプラスに構えて受け流してくれた。

ハルの分まで何度も謝る私に、
「男の子なんてこんなもんだよー、大丈夫大丈夫」
とコウくんのママは言ってくれたけれど、男の子1人の親であり、姉妹で育ってきた私には、男兄弟の触れ合い方なんて想像がつかない。

それに最近のハルは、どうも戦いごっこに興味が出てきたようで、見るアニメも、人々が争うことのない平和なものより、戦うシーンがあるものの方を好んで選ぶようになった。
そんな我が子の変化にも、私は少し戸惑っていた。

懐かしきマタニティーライフ

そう言えば、妊婦生活が始まってまだ赤ちゃんの性別がわからなかった頃、パパはいつも『女の子な気がするなぁ』と、目尻を下げながら言っていた。
姉妹で育った私も、パパの言うように女の子だったらいいなぁと思っていた。
大きくなったら一緒に洋服を買いに出かけたり、好きな男の子の話を聞いたり、一緒にお菓子を作ったり、そんなことができたらいいな、なんてどんどん想像を膨らませて。

でも反対に男の子もいいな、とも思っていた。
子育て自体が未知だけれど、男の子というもっと未知の世界も、ママとして体験してみたい、と。

そして妊娠5ヶ月の時にわかった性別は男の子。
妊婦健診にはパパも何度か付き添ってくれたけれど、ちょうど性別を知らされた時は私1 人で、しばらくパパには言わないでおこうと決めた。
私もその時聞くつもりではなかったのだけれど、エコー写真を見たら、もう男の子なのは確定で、産婦人科の先生も言わざるを得なかったのだ。

周りの男の子のママからは、『男の子はかわいいよー』と聞かされていたから、それからは女の子ではなく、男の子に置き換えての楽しい想像が続いた。
最初はママ、ママって甘えてばっかりだったのが、いつの間にか声変わりもして、背も自分よりずっと大きくなって、頼りがいのある優しい男の子になっていくのかなぁ、とか、パパと2人で男同士仲良く出かけて行ったりするのかなぁ、とか。


理想と現実のギャップが大きい育児

でも同時に、『男の子は大変だよー!』と言うママもいた。
妊娠中はどんなことが大変なのか想像もつかなかったけれど、まだ3歳だというのにそれがよくわかる。
体力がついてきているから、朝起きてから夜寝るまで、昼寝なしでフル回転で動き回るハル。
私はそんなハルの相手をしながら、家事もこなさなくてはならない。
そしてこれから先成長していくにつれて、その時々で大変なことの内容は変わっていくのだろう。
男の子に限ったことではないのかもしれないけれど、今は体力だけでなく心も成長して、意思表示もハッキリしてきた。成長の証といえど、こちらは疲弊してしまう。

私がパパの田舎のご両親から聞いた話では、昔は畑仕事や自分の仕事が忙しくて、親が子供と一緒に遊ぶことなんてほとんどなかったらしい。
近所づきあいも密だったし、兄弟姉妹がいる家庭が多かったから、それなりに遊び相手がいるような環境だったとか。
それに、『自然』という最強の遊び相手がいたのだ。

私がハルを育てている環境は、東京という街のせいもあってか、そうやってみんなで子供の成長を見守ってきたのとは違って、孤立している感覚が少なからずある。
それに、ハルには兄弟がいない。
老後の生活を趣味にあててエンジョイしている両親はなんだかんだと忙しくしているし、両親に預けるほどの用事はないし……。時々ハルと2人で両親のところに顔を見せに行くけれど、近いところに住んでいながらあまり頻繁には行っていない。
状況はそれぞれ違っても、そばでフォローしてくれる人がいなくて1人で抱えこまなくてはならないような環境が、多くのママを疲れさせているように私は感じるのだ。

3歳児のハルに試される私

だから、ハルが頼るのも圧倒的に私なのだけれど、それでも時々、『ママはおこるからやだ!パパがいい!』、と言われてしまうことがある。
本当なら真に受けなくていいことなのかもしれないけれど、私は本気で傷ついたりする。
そういう時にパパがいれば、『そんなこと言わないの。ママがかわいそうでしょ。』とフォローしてくれるのだけれど。

『お父さん嫌い』、ならよく聞くけど、こんなに嫌がられるママっているのかな。
私は他のママより怒りすぎなのかな。

『ママはやだ!』とハルに言われた時に、『ハルはママがいない方がいいみたいだね』、と大人げなく返してしまう私も私だけれど、日々感情の振り幅が大きいのは確かだ。
日中頼れるのが私しかいないのに、その私が怒ってばかりでは、ハルが私を嫌がるのも無理はない。

それに、ハルが何かやらかした後なんかは、『仕事増やさないで!』とつい怒ってしまう時がある。
『ママを怒らせないで!』も良くない言い方だと、インターネットの育児サイトで読んだことがある。
読んだその時は、言わないように気をつけようと思うのに、実際は抑えられずに口に出してしまう。
そして1度怒ってしまうと、ハルはもうケロッとしていても、私はいつまでも引きずって、笑顔でいることすら難しくなって、ハルが笑いかけてくれても私の顔はこわばって引きつったまま。
そうするとハルは、曇りのない澄んだ目でじっと私を見て、こんなことを言うのだ。

「ママ、もっとたのしそうにわらって」

ハルには、いろいろと見抜かれている気がする。
ハルは3歳にしてはよくしゃべる方だけれど、それでもまだまだ知らない言葉はたくさんある。
小さい子ほど、表情だとか声のトーンなどの、言葉以外の目に見えるもので相手の心を読み取る能力に長けているのかもしれない。

SNSに書き込むことで悩みを吐き出す日々

1週間のうち、怒らずに過ごせた日は何日あっただろうか。
ハルの自己主張が強くなっていくと同時に、そんなふうに1週間を振り返るようになった。
いわゆる『マタニティーライフ』と言われる十月十日の間の、少し不安な気持ちと、それ以上に期待と希望に満ちあふれていた私の穏やかな日々は、出産とともに目まぐるしい日々へと変化してきた。
もちろん、これから先のハルの成長には、パパと私の期待と希望がたくさん詰まっている。
でもやっぱり、自分の子育ての仕方や、ハルの成長に伴う言動に対しての悩みは尽きない。

私はことあるごとに、そんな悩みをSNSに書き込んでいた。
かつて子供がいない同士、お互いに頼り合っていた大切な友人の気持ちも考えずに……。

次回は来週公開〜出産

ライター みらこ
3歳児に翻弄される日々を送る音楽大好きママ



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